2023-12-29

『全訳 家蜂蓄養記』の試し読み

Google booksでは、『全訳 家蜂蓄養記』の試し読みが可能です。

https://books.google.co.jp/books?id=HzXqEAAAQBAJ&printsec=frontcover&source=kp_read_button&hl=ja&newbks=1&newbks_redir=0&gboemv=1&redir_esc=y#v=onepage&q&f=false

本書の約2割をご覧いただけます。

もちろん、この試し読みで全貌を摑むことはできませんが、本書のクオリティが如何ほどのものかは十分に知ることができます。もし購入を迷われているようなら是非ご一読ください。きっと「値段だけのことはある」と納得いただけることでしょう。

また、Google booksでは、書籍内検索もできます。試し読みできない範囲でも、少しなら読むことができます。「朝鮮出兵」、「蜂飼市右衛門」、「尾呂志孫次郎」、「島津義弘」、「マルハナバチ」など、思いつく様々なワードで検索してみてください。書籍内検索は、電子書籍ならではの強みです。紙の本と合わせてご購入ください。

2023-12-22

『家蜂蓄養記』の写本を読むには

農文協刊『全訳 家蜂蓄養記』を読めば、『家蜂蓄養記』を現代語訳で読めますし、解説もついています。書き下し文も、校訂済の原文もついています。

それでも、写本を読んでみたい、あるいは見てみたいという人はいるでしょう。そのような方は、以下のリンクからダウンロードしたり、複写依頼を行ってください。

■国立公文書館

https://www.digital.archives.go.jp/DAS/meta/listPhoto?LANG=default&BID=F1000000000000031889&ID=&TYPE=

視聴草(28コマ目から)

https://www.digital.archives.go.jp/DAS/meta/listPhoto?LANG=default&BID=F1000000000000038241&ID=M2016090815061154250&TYPE=

■富山大学附属図書館(医薬学図書館)

https://toyama.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=17270&item_no=1&page_id=32&block_id=36

■国会図書館

今のところ国会図書館は、オンラインで閲覧できるようにはしていないので、複写依頼をする必要があります。

https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/search?keyword=家蜂蓄養記&searchCode=DETAIL

さて、写本で読んでみられたでしょうか。スラスラ読めた人は一人もいないのでご安心ください。日本では、古典、特に漢文が得意な人の方こそ稀有な存在です。

国文学や歴史学を学んでいる人は、なんとなく分かるでしょうが、それでも一読して理解することは不可能です。それは、養蜂に関するところを正確に理解できないからですが、根本的には、どの写本にも誤りが含まれているからです。もし、校訂されていない写本で理解できたと言うのなら、それは嘘になります。

校訂は、写本同士の比較だけでなく、引用文献まで調査しています。写本に入り込んだ誤りは、論理的に検討を加え、順序に従って取り除きました。そうして定本を作った結果が『全訳 家蜂蓄養記』ですので、是非そちらの方をご覧ください。

2023-12-15

江戸時代にウスグロツヅリガは存在していたのか?

現在、日本には2種類のスムシ、つまりは「ハチノスツヅリガ」と「ウスグロツヅリガ」がいます。これまでの見解は、「ハチノスツヅリガは外来種でウスグロツヅリガは在来種」というもので、「江戸時代のスムシとはウスグロツヅリガだ」という意見が主流でした。

■江戸時代のスムシについての記述

しかし、拙訳『全訳 家蜂蓄養記』に説明したとおり、ハチノスツヅリガは既に江戸時代にはいました。貝原益軒『大和本草』(1709)、久世松菴『家蜂蓄養記』(1791)はもちろんのこと、水戸・徳川斉昭『景山養蜂録』(1840)、紀伊・曽和直之進『ミツバチ取伝』『蜂蜜作伝』(1860年前後)にも、スムシの有害性とその対策が記されています。そのようなわけで、江戸時代にハチノスツヅリガがいたことの証明は容易です(『全訳 家蜂蓄養記』p122〜125)。

他にも、土佐藩の役人・森勘左衛門は、1766年の『日記』に、

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八月十一日 晴天

古き蜜桶に巣虫わき、蜂桶ゟ出に付、桶を替。古桶は蜜汁を取、蜂は新桶へ移る。

※「ゟ」は「より」と読む

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と書かれています。

直接的な描写はないものの、やはりスムシのことと思われる例として、細川氏支配時代の小倉藩の1628年の『日帳』があります。それには、長崎から到着したミツバチの管理について、

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四月十四日

一、長崎へミつはち取ニ被遣、今日参候由、(中略)又一日ニ一度宛掃除を仕ものゝ由候(中略)

-

と、毎日1度掃除していたことが書かれており、これはスムシ対策の実施だと見られます(『全訳 家蜂蓄養記』p173)。

このようなわけで、江戸時代にハチノスツヅリガがいたことは容易に証明できます。対して、むしろ今では江戸時代にウスグロツヅリガが存在していたことを証明する方が難しいです。

「江戸時代にウスグロツヅリガは存在していた」かどうか問われたなら、「いたと思います」と答えることはできますが、「その証拠を見せてください」と求められても、それは出せません。私たちは漠然と「江戸時代にウスグロツヅリガは存在していた」と信じているだけです。

■なぜウスグロツヅリガの存在を証明できないのか

江戸時代に「ハチノスツヅリガ」と「ウスグロツヅリガ」を区別して認識していた本草家はいませんでした。少なくとも、そのような記述は残していません。

久世松菴でさえ、2種類のスムシがいることまでは認識していませんでした。その結果、有害性の高いハチノスツヅリガの記述だけが残り、ウスグロツヅリガはその影に隠れて見えなくなっているのです。

■『家蜂蓄養記』の「小者重分、大者過寸」

「この『小者』はウスグロツヅリガで『大者』はハチノスツヅリガだ」と想像してしまうのは、今日的知見として「日本には、小型の『ウスグロツヅリガ』と大型の『ハチノスツヅリガ』という2種類のスムシがいる」という前提で見ているからです。このように発想する人は珍しくないでしょう。 

しかし、江戸時代にスムシは1種類しか認識されていなかったので、著者の久世松菴の頭の中では、「小者」は観察上の初齢幼虫で、「大者」は終齢幼虫だったはずです。そのようなわけで、「小者重分」を「小さなものは少しずつ大きくなって」と訳した次第です。

「大者過寸」は「大きなものは三センチを超える」という意味で、もちろんのこと、ハチノスツヅリガの終齢幼虫の大きさとピッタリです。

また「分」は3mmです。もし「小者」がウスグロツヅリガの標準的な幼虫の大きさを言っているのだとしたら、あまりに小さすぎます。やはり、「小者重分」をウスグロツヅリガのことだとするのには無理があります。

■今後の課題

拙訳『全訳 家蜂蓄養記』が公開されたことで、ハチノスツヅリガとウスグロツヅリガの歴史的立場が逆転してしまいました。今後は、「いつ、誰が、どのように、ウスグロツヅリガを認識し区別するようになったのか」が検討課題となることでしょう。

2023-12-08

『全訳 家蜂蓄養記 − 古典に学ぶニホンミツバチ養蜂』が刊行されました

多くの場合、書籍の発売日とは、書店などに並び入手可能になった日です。そのため、全国バラバラで都市圏の方が若干早い傾向にあります。また、奥付の日付も完全に一致するわけではありません。それでも今日から誰もが買えるようになっています。

『全訳 家蜂蓄養記 − 古典に学ぶニホンミツバチ養蜂』は、養蜂関係者はもちろんのこと、それ以外の多くの人々に楽しんで読んでいただけます。

まず、ニホンミツバチ養蜂家にとって、江戸時代の飼育がどのようなものであったのかを、漠然とではなく、具体的に知ることができます。そのような知識を得ることで、今の養蜂を相対化してとらえることができるようになります。現代まことしやかに言われていることが、意外と根拠の乏しいものであることに気づくのは良いことです。

セイヨウミツバチ養蜂家にとっても、日本の養蜂史を知っておくことは必須の教養です。どのような専門職の人々も、その職業の歴史的流れを把握しているものです。今回、『全訳 家蜂蓄養記 − 古典に学ぶニホンミツバチ養蜂』において、日本の養蜂の実質的な始まりが朝鮮出兵にあったことが明らかにされています。きっと読者は驚かれたことでしょう。私も驚きました。これまで日本の養蜂史の説明がなんとも歯切れの悪い曖昧なものだったのは、この事実に気づいていなかったからです。つまりは、研究がおざなりにされてきたからです。本書の刊行を境に、グダグダだった日本の養蜂史は、辻褄の合う筋の通ったものになります。

というように、ニホンミツバチも日本の養蜂も歴史的大事件に関わりがあり、それについて書いている本書は、歴史好きの方にエキサイティングな読書体験を提供してくれます。秀吉の朝鮮出兵までは(日本書紀に書かれている百済王の子・余豊璋の例を除き)、日本では養蜂は行われていなかったし、ニホンミツバチもいなかったのです。これまでは、太古の昔からニホンミツバチはいたとか、原始的な養蜂が行われていたとかされ、それらしく思える「証拠」が示されていましたが、それらが見当外れだったことを説明しています。本当かどうかは本書を読んでご判断ください。

このような新説は、古文書・古記録などの古い文献の研究によって導き出されたものです。私は国文学とは無縁の人間ですが、高校までは古文漢文を学んで来ましたので、それらを読み解くことができました。国文学を専攻していなくても、高校までしっかり勉強していれば、ブランクが何十年あろうと、古文も漢文も読めるのです。『家蜂蓄養記』は漢文で書かれています。高校までに習うことをすべて網羅している訳ではないにしても、多くをカバーしているので高校生の教材にうってつけです。教科書に、あるいは副読本に適しています。そもそも、このような古文献を自力で読む力を着けるために学習指導要領に従った教育がなされているわけです。大学受験や定期テストをクリアするために古典の授業があるわけではありません。

ニホンミツバチが、朝鮮出兵時に朝鮮半島からやって来てそれが増え広がったという歴史的事実は、これまでの「セイヨウミツバチ:外来種、ニホンミツバチ:在来種」という図式をリセットするものです。ニホンミツバチも立派な外来種なのに、ニホンミツバチに保護の必要を解き、セイヨウミツバチは外来種として軽んじる言説は、その根拠を欠くこととなります。在来種・外来種の線引、外来種は本当に在来種を圧迫しているのか? そのような押し付けられてきた「常識」を再検討せずに環境問題を語ることはできないでしょう。そもそもこの外来種問題は、国家主義や排外主義といったイデオロギーが巧妙に仕組まれていますから、安易にそれを絶対善とすることはできません。

このようにざっと挙げるだけでも、『全訳 家蜂蓄養記 − 古典に学ぶニホンミツバチ養蜂』は、多くの人々にとって読む意味のある本です。養蜂家でなくてもスラスラ読めて、古典の割には取っ付き安いという評判ですので、是非ご覧になるようお勧めします。

2023-12-01

現代農業1月号の内検の記事について

この度も、農文協さんの『現代農業』に寄稿する機会をいただきました。

養蜂を行うこと、それすなわち「内検」ですが、皆さん一体どのような内検をしているのか、よく考えたらほとんど見たことがありません。今では、Youtubeなどで、他所の内検風景を見ることもできますが、「随分私とは方法が異なる」というのが私の感想です。

標準的な内検の作法があるとは思えませんが、おそらくは、教わった人のやり方を真似ているのでしょう。今回は私の内検のポイント、勘どころをお見せすることで、何を目的に、どこに注目し、どのようなことを行っているのかを書いています。

記事は3回の連載で、今度の初回の記事は、これから養蜂を始める人を念頭に、基礎的なことだけでなく、養蜂書には書かれていないような小技、テクニックなども書いています。

翌号は飛んで3月号と4月号に続きます。よりレベルアップした内容になる予定です。熟練者にとっても今回の記事は役に立ちますので、是非ご覧ください。