2020-10-30

腹側撮影法


ヘギイタダニ寄生率モニタリングの必要とシュガーロール法の欠点


ヘギイタダニ寄生率をモニタリングすることは養蜂を行う上で非常に大切なことです。

寄生率が分からないのに防除を行うことはできません。寄生率を調べずに全群に薬を入れることもできますが、特に防除の必要もなく薬を入れるのは薬代の無駄になります。そうでないとしても蜂、特に女王蜂の寿命を縮めることになります。むやみに薬を入れるべきではありません。

寄生率を調べる標準的な方法にシュガーロール法という方法があります。詳細は他のサイトに譲るとして、その方法は、砂糖が無駄になり食べ物を粗末にしているようで、というか実際にそうなので、あまりやりたくない方法です。読者のみなさんもきっと同じように感じていることでしょう。

もっと賢い方法はないのでしょうか。通常ヘギイタダニは蜂の腹側や側面に寄生しているものです。通常見えるのは蜂の背中にいる時です。背中についているのは他の蜂に乗り換えようとしている時で、めったに見られません。もし見ることができるようになったなら、それは寄生が相当進んでいる状態なので、むしろ見たくないものです。


クリアファイルケース


腹側を見る方法を考えました。透明のケースに入れて下から見るのです。

そこで、主に110円の商品を広く取り扱っている店で透明のケースを買ってきました。これに蜂を入れて下からデジカメで写せば、自宅でゆっくり腹側を確認できるはずです。


ケースを開き、巣枠から蜂を落とし直ぐに蓋をしました。蜂は飛んで逃げてしまいますからね。
蓋をする時は、挟んで殺してしまわないように気をつけました。


蓋を閉めててしまえばこちらのものです。
あまり入っていないように見えるかも知れませんが、これでも60匹も入っています。
遠慮せずにもっと落とせばよかった。


ミツバチの腹側



下のふたつの画像をクリックして見る時は、画像サイズが大きいので気をつけて下さい。
いわゆる8Kサイズの、数Mバイトもある巨大な画像ファイルです。

こうしてみると蜂の腹側がよく見えますね。
もっと透明度の高い素材だったら、よりよく見えていたかもしれません。


ヘギイタダニは写っているでしょうか?


胸部の腹側についているヘギイタダニ



蜂の腹側がはっきり見えますが、ヘギイタダニらしいものを見つけることはほとんどできませんでした。

普段から、ダニの寄生率は低いように感じています。背中についているヘギイタダニを見たことはありませんし、床に死骸が落ちているのを見たこともありませんから。今年見た翅が縮れた蜂も3匹だけです。

インターネットには、薬を入れた直後に巣門前に赤い粒のようなヘギイタダニが大量に捨てられている画像がアップされたりしていますが、薬を入れてもそのような大漁(?)を見たことはありません。見てみたい気もしますが、見たくても見れない方が良いので、見たくありません。

それでも翅が縮れた蜂がいたくらいですし、そもそもヘギイタダニがいないなんてことはありえないので、どこかにいるはずです。

何枚か画像をよく調べているうちに、ようやく見つけることができました。右上の蜂の腹部にヘギイタダニがついているのが分かります。



いないようで、やはりいるものです。

サンプル数は400くらいないと正確な寄生率は出せません。サンプルが60匹では誤差が12%くらいで大きすぎるためあまり参考にはなりませんが、検査群のヘギイタダニの寄生率は一応1.6%でした。

【追記2021/4/28】

腹側から写した動画をアップロードしましたのでご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=1IEUi-7G6lY


2020-10-16

聖書とハチミツ3--乳と蜜の流れる地


乳と蜜の流れる地




神ヤハウェ/エホバ(文語体聖書)がアブラハムに対し、その子孫に与えると約束した「約束の地」は「乳と蜜の流れる地」(出エジプト3:8)でした。この程度のことは、イスラム教やユダヤ教、キリスト教の信者でなくても教養のある人なら誰もが知っていることでしょう。

今回考えるのはこの「蜜」についてです。養蜂家ならこの「蜜」のことを「蜂蜜」と思ってしまうことでしょう。英語訳の聖書を見ると約束の地が”a land flowing with milk and honey”なので、ますますその確信を強めてしまうことでしょう。


דבש


しかし、ヘブライ語で書かれた聖書中の語義を英語で考えるのはナンセンスです。かといって、ヘブライ語で考えればより良く分かるというものでもありません。

「乳と蜜の流れる地」の「蜜」のヘブライ語は、「דבש」です。「דבש」ではなんのこっちゃ分かりませんので、音訳すると「ドゥバシュ」になります。音訳しても解釈にはまったく役に立ちませんが。

ヤハウェが約束した「דבש(蜜)」が一体何なのかは、当のユダヤ人たちも一義的には分からなかったので、その解釈は注釈書に当たるタルムードを参照していました。タルムードのケトゥボート(Ketubot)の111bによれば、「דבש(蜜)」は、イチジクの甘味のことのようです。なお、「乳」の方はヤギの乳です。
ラミ・バル・エヘズケルRami bar Yeḥezkelは、ベネイ・ベラクBenei Berakに偶然出会った。彼はイチジクの木の下で草を食べているそれらのヤギを見た。そこには、イチジクからにじみ出る蜜(דבש)とヤギから滴る乳があり、ふたつの液体は共に混ざっていた。彼は言った。これは「乳と蜜の流れる地」という節の意味である。(Ketubot 111b)

しかし、これもラビたちの解釈なので、イチジクで間違いないとまでは言い切れません。これをナツメヤシだと考える人もいます。イスラエルには昔からナツメヤシが生えていて、その実を乾燥させたものはデーツと呼ばれています。デーツは非常に甘いドライフルーツです。

要するに今も昔も、ヤハウェが言った「דבש」が何なのか誰も分かっていないのです。


なぜ蜂蜜ではないのか


今日多数派は、「乳と蜜の流れる地」の「蜜」はナツメヤシかイチジクと考えていて、蜂蜜と考える人はほとんどいません。その理由は、聖書中に蜂蜜についての記述がほとんどなく、またイスラエルにおいても養蜂が行われた形跡がなかったからです。イスラエルで養蜂が行われていたことは、聖書とハチミツ2--古代イスラエルにおける養蜂でも書きましたが、最近分かったばかりです。

昔から発掘調査が行われている割に、養蜂場が見つかったのはテル・レホブの遺跡だけなので、古代のイスラエルで養蜂は盛んではなかったのでしょう。エッセネ派の中心地かも知れないと考えられているクムラン周辺にも養蜂場跡は見つかっていません。少なくともアブラハムの時代には養蜂の「よ」の字もなかったのでしょう。


約束の地に蜂蜜がなかったわけではない


このようなわけで、ヤハウェがアブラハムに約束した「乳と蜜の流れる地」の「蜜」は単に甘い物を抽象的に指しただけで、ずばり「蜂蜜」のことを言っているわけではないと解釈するのが妥当です。

それでも、イスラエルに「蜂蜜」そのものがなかったわけではありません。ミツバチもいましたから、野生のミツバチの巣から巣脾(巣板)ごと蜂蜜を採ることは行われていたことでしょう。これについては次回検討します。

2020-10-02

沈黙の秋

夏の花粉源植物ヒマワリ」の続きです。

今年もセイタカアワダチソウは9月中に咲いてくれました。これでミツバチも越冬の食料を蓄えることができるはずです。
しかし、今年のミツバチの成績は芳しくありません。7月はずっと雨、8月は高温と日照りだったため、2か月あまり蜂たちは仕事になりませんでした。その間、花も少なかったのでしょう。どの群れも疲弊しています。

苦境に立たされているのはミツバチだけではありません。今の時期はオオスズメバチやキイロスズメバチ、コガタスズメバチの来襲で大忙しのはずなのですが、これが驚くほどやって来ません。あまりにやって来ないので滅んだのではないかと心配してしまうくらいです。

スズメバチは、この2か月の肝心な時期にコロニーを拡大させることができなかったと思われます。つまり毛虫や芋虫がほとんどいなかったのでしょう。害虫がいないことは一見良いことですが、同時に薄ら寒いことでもあります。それだけ地域環境が貧しかったことを意味するからです。

実際、今年の上荘の夏は貧しかったものと思われます。木の実も熟す前に落ちているものが多くありました。花蜜がないだけでなく実もないならば、イノシシやアライグマその他タヌキやキツネはどうやって生きていけばよいのでしょうか。

次の冬はラニーニャのせいで冷え込む予想です。秋が長引けば、蜂は立ち直るでしょうし、動物たちも冬越しの準備ができるはずです。あと2か月、できれば3か月今の気候がもってくれることを願うばかりです。

かんばしいビワの樹」に続きます。