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6月, 2021の投稿を表示しています

今年のハチミツ

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「 生はちみつの発酵について 」の続きです。 昨年の上荘エリアは凶作で、蜂は増えず、ハチミツも採れず、越冬中に大量死が起きるなど、どこも散々でした。それでも、今年は昨年よりは幾分マシです(低い状態と比べれば、いつだって今の方がマシです)。 ハチミツを略奪する無慈悲な人間 当養蜂場では、基本的にハチミツは蜂の餌だと考えています。蜂が毎日コツコツ集めた蜜をごっそり奪って良い理由はほとんどありません。 ハチミツは人にとってはもちろんのこと、蜂にとっても貴重な財産です。蜂を騙しておびき寄せ、世話らしい世話もせずにハチミツを取ることは「盗み」そのものです。その盗みが罰せられないのは、「ハチミツの所有者が人間ではないから」という理由しかありません。 一方向の財の移動は均衡がとれていません。つまり互酬関係(何かを受けたら相応の何かを返すこと)が保たれていません。このような互酬性は人間の世界にだけ当てはまるのではなく、万物に当てはまります。一方的搾取が許される世界は宇宙のどこにもありません。この世界の理(ことわり)に反した採蜜は、略奪というより他ありません。 強いて採蜜の正当化事由を挙げるとすれば、セイヨウミツバチでは自力で対処できない、秋季のオオスズメバチからの保護や、ヘギイタダニの駆除をしてやっていることくらいでしょうか。他には、営巣場所を提供してやっていることも挙げられるかもしれません。 それでも、これらの「正当化事由」も、ハチミツの略奪の言い訳としては弱いように思えます。

タイムの花はヘギイタダニ駆除に有効か

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「 カモミールの植栽 」の続きです。 ご存じないかも知れませんが、今日はタイムの日です。タイムは6月18日の誕生花です。しかし、そんな日は人間が商売するために勝手に決めた日ですのでまったく気にする必要はありません。 さて、日本の養蜂界でにわかにタイムに注目が集まっているのは昨年から販売が開始されたチモバールの主成分であるチモールを多く含有しているからです。 このタイムを養蜂箱にいれればチモバールの代わりになって薬代を節約できる、と考える人はいるでしょうが、少し摘んで入れただけでは話になりません。チモバール一回分のチモール相当量を含有するタイムの葉は2、3kgになりますから。 結論を先に書いてしまいましたが、皆さんが試すのは自由です。入れたら入れたで多少のダニは落ちるはずです。しかし持続性はないので、続々と巣房から出てくる新しいダニを駆除するには2週間切らさずに入れ続ける必要があります。 そんな大変なことはできないからこそ製剤化された薬品が市販されているのです。 「今年のヒマワリ」に続きます。

アリストテレスとミツバチ

「 聖書とハチミツ7―シリア・ミツバチに喩えられたアモリ人 」の続きです。 アリストテレスについては特に説明不要でしょう。 アリストテレスは『 動物誌 』の第5巻21章と22章の中でミツバチについて書いています。そこには現代の知見からは大いに間違った珍説が多数収められています。 雄蜂は別の種類の蜂 アリストテレスは、ミツバチには「リーダー」と「役に立つ蜂」がいると考えました。それらはつまり女王蜂と働き蜂のことです。しかし、アリストテレスは女王蜂は雄だと考えていたので「リーダー」としています。また、雄蜂の存在には気づいているようでしたが、それは別の種類の蜂だと考え、「ケーペーン」と呼んでいます。これについては、女王蜂と働き蜂は外観がほぼ同じであるのに対し、雄蜂は大分異なるので、そのように考えたとしても仕方ないところはあります。 当時のギリシア人は女王蜂を雄だと考えていたので、アリストテレスもそれに倣っていたわけですが、そうするとミツバチがどのように生じるのかという問題が生じます。そこで当時一般的だった、「花から生じそれを連れ帰って巣房に入れている」という通説を紹介しています。この説は現代から見るとおかしな説です。アリストテレスは、有力説として「ケーペーン」が雄蜂で、ミツバチ(働き蜂)は雌という説や、リーダー(女王蜂)がミツバチ(働き蜂)を産むという説も紹介しています。これらの「有力説」が正解であることは言うまでもありません。 針、複王制、花の蜜の正体、幼虫の生態 針については、雄蜂にはなく、働き蜂にはあり、女王蜂にもあるが刺さないことを記述しています。これも自説ではなく、他の人の説としての紹介に留めています。 リーダーつまり蜂王(女王蜂)は、コロニーに数匹いると言っています。これはリーダーには2種類あるという先入観に基づいて観察した結果、導き出されたのでしょう。「火のような色」の蜂は、たまたま明るい色で生まれた働き蜂と思われますが、それをアリストテレスはリーダーにカウントしてしまったわけです。 蜂が蜜を花から集めていることは正しく認識していました。しかし、花の蜜は、花の分泌物ではなく、空気中の霧が溜まったものだと考えていました。これは当時のギリシア人が一般的に信じていた考えです。 小蛆、つまり幼虫の時は糞をしないが、出房後に糞をする、と書いています。これも半分間違いで

翻訳『野生ミツバチの知られざる生活』のレビュー

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アメリカ合衆国のミツバチ研究者トーマス・シーリーの近著 "The Lives of Bees"の翻訳 が今年の2月に刊行されました。原書は良いのですが、青土社から出た翻訳は、残念ながら非常に大きな問題を抱えています。 このブログの読者なら既にお気づきでしょうが、この訳書の表紙の蜂はミツバチではありません。 ミツバチの特徴は腰がくびれているところです。訳書の表紙の昆虫はどこをどう見ても腰はくびれていません。背中の盾板もミツバチのものではありません。翅脈もめちゃくちゃです。種類はよく分かりませんが、何らかのマルハナバチを描いているように見えます。ハナバチも蜜を集めるので広い意味ではミツバチですが、訳書の主役である Apis mellifera ではありません。 翻訳者や編集者、装丁デザイナーらは誰も気づかなかったのでしょうか。 こんな表紙では養蜂家が手にしないとしても仕方ありません。わたしが著者なら目眩がして寝込んでしまうでしょう。