2023-12-08

『全訳 家蜂蓄養記 − 古典に学ぶニホンミツバチ養蜂』が刊行されました

多くの場合、書籍の発売日とは、書店などに並び入手可能になった日です。そのため、全国バラバラで都市圏の方が若干早い傾向にあります。また、奥付の日付も完全に一致するわけではありません。それでも今日から誰もが買えるようになっています。

『全訳 家蜂蓄養記 − 古典に学ぶニホンミツバチ養蜂』は、養蜂関係者はもちろんのこと、それ以外の多くの人々に楽しんで読んでいただけます。

まず、ニホンミツバチ養蜂家にとって、江戸時代の飼育がどのようなものであったのかを、漠然とではなく、具体的に知ることができます。そのような知識を得ることで、今の養蜂を相対化してとらえることができるようになります。現代まことしやかに言われていることが、意外と根拠の乏しいものであることに気づくのは良いことです。

セイヨウミツバチ養蜂家にとっても、日本の養蜂史を知っておくことは必須の教養です。どのような専門職の人々も、その職業の歴史的流れを把握しているものです。今回、『全訳 家蜂蓄養記 − 古典に学ぶニホンミツバチ養蜂』において、日本の養蜂の実質的な始まりが朝鮮出兵にあったことが明らかにされています。きっと読者は驚かれたことでしょう。私も驚きました。これまで日本の養蜂史の説明がなんとも歯切れの悪い曖昧なものだったのは、この事実に気づいていなかったからです。つまりは、研究がおざなりにされてきたからです。本書の刊行を境に、グダグダだった日本の養蜂史は、辻褄の合う筋の通ったものになります。

というように、ニホンミツバチも日本の養蜂も歴史的大事件に関わりがあり、それについて書いている本書は、歴史好きの方にエキサイティングな読書体験を提供してくれます。秀吉の朝鮮出兵までは(日本書紀に書かれている百済王の子・余豊璋の例を除き)、日本では養蜂は行われていなかったし、ニホンミツバチもいなかったのです。これまでは、太古の昔からニホンミツバチはいたとか、原始的な養蜂が行われていたとかされ、それらしく思える「証拠」が示されていましたが、それらが見当外れだったことを説明しています。本当かどうかは本書を読んでご判断ください。

このような新説は、古文書・古記録などの古い文献の研究によって導き出されたものです。私は国文学とは無縁の人間ですが、高校までは古文漢文を学んで来ましたので、それらを読み解くことができました。国文学を専攻していなくても、高校までしっかり勉強していれば、ブランクが何十年あろうと、古文も漢文も読めるのです。『家蜂蓄養記』は漢文で書かれています。高校までに習うことをすべて網羅している訳ではないにしても、多くをカバーしているので高校生の教材にうってつけです。教科書に、あるいは副読本に適しています。そもそも、このような古文献を自力で読む力を着けるために学習指導要領に従った教育がなされているわけです。大学受験や定期テストをクリアするために古典の授業があるわけではありません。

ニホンミツバチが、朝鮮出兵時に朝鮮半島からやって来てそれが増え広がったという歴史的事実は、これまでの「セイヨウミツバチ:外来種、ニホンミツバチ:在来種」という図式をリセットするものです。ニホンミツバチも立派な外来種なのに、ニホンミツバチに保護の必要を解き、セイヨウミツバチは外来種として軽んじる言説は、その根拠を欠くこととなります。在来種・外来種の線引、外来種は本当に在来種を圧迫しているのか? そのような押し付けられてきた「常識」を再検討せずに環境問題を語ることはできないでしょう。そもそもこの外来種問題は、国家主義や排外主義といったイデオロギーが巧妙に仕組まれていますから、安易にそれを絶対善とすることはできません。

このようにざっと挙げるだけでも、『全訳 家蜂蓄養記 − 古典に学ぶニホンミツバチ養蜂』は、多くの人々にとって読む意味のある本です。養蜂家でなくてもスラスラ読めて、古典の割には取っ付き安いという評判ですので、是非ご覧になるようお勧めします。