読者の皆様は、タイトルの「五月蝿」をどのように読まれたでしょうか?
多くの方は、「うるさ(い)」と読まれたことと思います。現代人なら大抵そう読むでしょう。もっとも、出題者の側としては「さばえ」という解答を期待していました。五月(さつき)の蝿は「五月蝿」と書いて「さばえ」と読まれていました。
「五月蝿(さばえ)」の意味は、もちろん「煩いハエ」です。旧暦で五月の蝿はうるさかったのです。現代の人は、今一ピンとこないかもしれませんが、一昔前まで初夏は蝿が大量発生し、文字通り五月蝿(煩)かったのです。養老孟司など戦前生まれの人々はそう言っています。ちなみに、今某所で大量発生し空を黒く染めているユスリカはハエの仲間です。環境が整えばハエはこの時期になると大量発生します。
このような長い前振りをしたのは、『日本書紀』の推古天皇三十五年(西暦六二七年)五月の十丈ばかりの蝿の大群について述べるためです。
卅五年春二月、陸奥国有狢、化人以歌之。夏五月、有蝿聚集、其凝累十丈之、浮虚以越信濃坂、鳴音如雷、則東至上野国而自散
皆さんは、原文を読まれたのは初めてかもしれません。読んで見られてどう感じられたでしょうか? これからミツバチをイメージされますか? 単に晩春ないし初夏の、煩いハエの大量発生なのではないでしょうか?
これを昔や今のミツバチ研究者が無理やり「古代の日本にミツバチがいた証拠だ」としたため、今日までそれはニホンミツバチの歴史研究の障害となってきました。牽強付会の何と罪深いことか。
さて、このハエを強引にミツバチだと論じる歴史捏造問題は脇に置いておくとして、春二月の「陸奥国有狢、化人以歌之」は面白いですね。当時はムジナが人に化けて歌うこともあったのです。日本の正史にそう記されているのですから間違いありません(笑)。