2025-01-17

「雄蜂巣房切り」ではなく、「雄蜂巣房刺し」を行いましょう

現在、ヘギイタダニ対策の一つとして、いわゆる雄蜂巣房トラップ法が広く行われています。これは手間はかかりますが、アピスタンやアピバールよりも効果があり、薬代もかからず、農薬等(動物用医薬品、ギ酸、シュウ酸など)残留の心配もないことから、支持されています。私もそれを支持しているので、拙著『ミツバチのダニ防除』の副題にそれを入れたほどです。

『ミツバチのダニ防除』では、雄蜂巣房トラップ法の基本的なメカニズムや理屈を解説しています。その中で、オーソドックスな雄蜂巣房トラップ法として「雄蜂巣房切り」を紹介した上でそれを批判し、「雄蜂巣房刺し」を推奨しました。

蓋がけされた雄蜂巣房を切り取るなら巣房ごとヘギイタダニを処分できるので、直感的にダニ対策ができているような感じがします。対して、雄蜂巣房を刺すだけでは、未成熟ダニは殺せても母ダニは殺せず残ってしまうので、雄蜂巣房を切り取るよりも劣った方法のように思えてしまいます。そのため、刺すのではなく切る人の方が多いように思われます。

確かに、雄蜂巣房を切り取ってもそれなりにヘギイタダニ対策になっています。しかし、実験した結果を比べるなら、雄蜂巣房を刺す方が遥かに効果的でした。この直感に反する不思議な現象はなぜ起きたのでしょうか?それは、雄蜂巣房を切ってしまうと、外部寄生虫のヘギイタダニが働き蜂巣房に入ってしまい、そちらで繁殖するからです。

この問題は、雄蜂巣房を切るタイミングに時間差を設けたとしても変わることはありません。やはり、雄蜂巣房が少ないと、その分、働き蜂巣房に入ってしまうのです。そのようなわけで、この雄蜂巣房を切り取る方法ではなかなかヘギイタダニは減らず、成果は上がらないというわけです。そのため、人によっては雄蜂巣房トラップ法自体の効果を疑うこともあるでしょう。

対して、「雄蜂巣房刺し」は、蜂が雄蜂巣房を作り直す時間を必要としないため、ヘギイタダニが働き蜂巣房に行くことは少なくて済みます。「雄蜂巣房刺し」は、雄蜂巣房が温存されるので「雄蜂巣房切り」よりも効果的なのです。

というわけで、読者の皆様におかれましては、固定観念や思い込み、先入観に囚われることなく、事実と証拠に基づいて「雄蜂巣房刺し」を行うようお勧めします。

2025-01-03

『五瑞編』

江戸時代に著された農書に『五瑞編』があります。水戸藩の本草家・佐藤中陵(温故斎)による書です。これは農文協の『日本農書全集』にもラインナップされているのですが、翻訳されているのは、しいたけ栽培についての部分のみで、肝心の蜂蜜の部分は収録されていません。

『五瑞編』自体は、国会図書館がデジタル化してアップロードしているので誰でも読める状態にはなっています。しかし、崩し字で書かれており、なかなかハードルは高目です。というか、普通は読めません。

https://dl.ndl.go.jp/pid/2536397/1/14

前半部分は『農圃六書』の転載です。昔の書物は多くがそういうスタイルです。後半部分は中陵のオリジナルで、当時の熊野や水戸の養蜂の様子が描かれています。さらには、奥州の白河侯、つまりは松平定信についてもごく僅かですが、触れられています。

以下、該当部分を翻刻しましたので、ご覧ください。


温故斎 蜜記

蜜蜂

農圃六書曰、菜花盛時於古穴山野間収取、或編荊囤、或造木匣。両頭泥封内一二小竅使通出入別開一小門。時々開却掃除令浄。不使行他物所侵相近簷下去。蜘蛛綱、及防山蜂土蜂蠹蝕。九十月間天気漸寒百花已尽。宜留蜂冬月所食之蜜餘者割取作蜜蝋。至春三月掃除仍如前法養久蜂盛。一窩止留一王遇蜂王、分窩群蜂来輔飛出。用碎土撤而収之。別置一筒、並忌火日。割蜜法、先照蜂窩様式、再做方画一二層抽去底板、将方匣接放安置、仍以底板櫬之。令蜂做蜜牌子於下、停数日乗夜蜂伏而不動之時、用刀割取。或用細縄 扌勤 断。却封其窠。然後以蜜牌子、用新生布濾浄。磁器盛之。濾存蜜渣、入鍋内、慢火熬煎。候融化、扨出渣再熬。用錫鏃、或尾盆先盛冷水。次傾蝋在内。以蝋尽為度。

陰陽変化論云、蜂毎歳三四月生。黒色蜂、名曰将蜂、又名相蜂。老王乃相蜂所生也。相蜂不能採花。但能醸蜜。若無此蜂、不能成蜜。至七八月間、相蜂尽死。相蜂不死、則群蜂飢。俗云、相蜂過冬、蜂族必空。

蜂王大如小指。不螫人。蜂無王、則死。有二王、即分。分時、乃老王遜位而出。均挈其半。未嘗多寡、従王出者、不復四飛止、必環衛其王。皆有隊伍行列。採花時、一半守房、一半依次。撥發花少者受罰。毎日必三朝。

汝南圃史云、蜜蜂採他花、倶用双足挟二珠。唯採蘭花、則但背負一珠。以此頂献蜂王。

古人云、蜂有君臣之義。信然哉。

寛政乙卯年、予か此解を作て云。蜜蜂の物たるや、鎖細にして有情有義有王能く衆を従へ人を螫す。是れ天の人を益する事、自然と此物を生ず。此故に人養て養ふ処に従ふ。予西土に在て其養ふ所を詳にするに、凡春三月より四月に至るの間、天朗にして暖和なれば、数百群をなし聚り来りて遂に数万に至る。此時声ありて近づき迫るべからず。是をみて即時清水を持出し杉葉を束ねて水を浸して追ひて空中に沃く。時々頻りに大雨降り来りて羽翼を潤せん事を恐れて大樹の股、或は枝下に集る。先つ是を見て匣の中に皿を里き、酒を纔に入れて其匣の上に方寸の竅を開き、其傍に近つけ置く時は其強気を聞て暫時に匣の中に入るなり。之を持来りて簾下に懸け置く。是より日々友を誘引し来る。遂に窩を作り蜜を醸す。此蜜を取らされば、一年を待たずして益繁生す。扨此蜜を採るは、先す其年の多少をみて秋は九月二十頃取る可し。翌春までの食料を残し、冬より春までの分量を見事して取るなり。若し多々取る時は食不足して悉く死する事あり。食物多き時は春に至りて、其勢けよし。扨蜜を取るは、夜深更に及びて其匣を下ろし、窩を切り取るなり。此時裸体にてよし。衣類を着る時は衣中に入て蟄す事あり。是を第一心得べし。其切り取る蜜を皿、或は鉢の如きの器物の上にて糸にて懸置けば、蜜垂れて糸の如く達滴す。二三日を経て蜜の出止を伺ひて愈無れば其窩を布袋に入れて搾て蜜を出し尽すべし。此蜜は滓にて薬用には宜しからず。日を経て自然と凝て蜜蝋となるなり。其鉢中の蜜は鍋に入れて文火にて一沸して布にて濾し、滓を去り、之れを煉蜜といふ。乃ちの葉材を調ふべし。数年を経れば底に沈みて蜜蝋の上品となるなり。或は亦其蝋も切取りて、又皿に陀(?)を盛り置く可し。即酔忘して人を傷す。又散せずして亦窩を作り醸す也。山家に作るを山蜜といふ。氷白にして玉の如し。是れ山中は山麓冬青等の白花附く故なり。邑里には雲䑓及芥子の黄花に着く。蚊に蜜黄気にして下品なり。凡芥子の黄花に着くにあらされば数百斤の蜜を出すに及びかたし。下品といへども、只其多きを貴ふなり。凡一家に五十余匣を簷端に釣り置く。近山に雑花たければ次第に多くなるなり。然れども五六十に過きず。近来は奥州の白河侯遠く求め養ふ。益繁昌す。然れば其種を移し来れば寒地と雖も養ふべし。

予が幼年は東方に蜜蜂あるるを聞ず。寛政(?)の頃紀州の熊野に至りて蜜窩を得て来る人尽く奇なりとす。近時は予が国中にも群り来りて飛鳴す。僅に十余年にして分するる此の如し。予か北方の民用を補はんために尽く茲に弁をつくす。西土は常に此養を業とするものあり。互に伝聞するに及はず。座匣茲に明す。