2025-06-20

オオゲツヒメ(大気都比売神)やウケモチ(保食神)から出て来たもの

オオゲツヒメは古事記に、ウケモチは日本書紀に出てくる食物の女神です。

オオゲツヒメはスサノオ(須佐之男)に、ウケモチはツクヨミ(月夜見)に、食物を出してもてなしますが、どちらも「汚い」という理由で殺されます。ひどい話ですが、それが私たちが食べている食物の起源となります。典型的な食物起源神話です。

なぜ食物の提供者が殺されなければならなかったのかというと、ストーリー上は、オオゲツヒメは鼻や口、尻から食物を出し、ウケモチは口から吐き出したからです。侮辱的に汚いので罰として彼女らは殺されたわけです。神話という観点からも、食物の生産は元となる食物(種)が死ぬことで多くを生み出すものなので、やはり死ななければなりません。

ここで問題なのは、オオゲツヒメやウケモチの死体から生み出されたものです。オオゲツヒメの場合、頭から蚕、目から稲、耳から粟、鼻から小豆、陰部から麦、尻から大豆が生じました。ウケモチの場合は、頭から牛や馬、額から粟、眉から蚕、目から稗、腹から稲、陰部から麦や大豆と小豆が生じました。次の通りです。

所殺神於身生物者、於頭生蚕、於二目生稲種、於二耳生粟、於鼻生小豆、於陰生麦、於尻生大豆(古事記 上)

実已死矣、唯有其神之頂化為牛馬、額上生粟、眉上生蚕、眼中生稗、腹中生稲、陰生麦及大小豆(日本書紀 神代上)

よく読んでみましょう。前者は、蚕、稲、粟、小豆、麦、大豆。後者は、牛、馬、粟、蚕、稗、稲、麦、大豆、小豆。何かが足りません。また何かが変です。まず、稲、麦、粟、大豆、小豆は理解できるでしょう。しかし蚕はどうでしょうか? 蚕は衣服に必要なものですが、食べ物ではありません。オオゲツヒメやウケモチの死体から、食べ物でない蚕は出て来たというのに、なぜミツバチは出てこなかったのでしょうか? 「そこは蚕じゃなくて蜜蜂でしょ」と、突っ込まざるをえません。

ミツバチが出てこなかった理由は、このブログの読者の皆様ならお分かりのことでしょう。この不可思議なエピソードについて、ニホンミツバチ在来種説の主張者は一体どのように辻褄の合った説明をするのでしょうか? 説得力のある説明をして頂きたいものです。


さて、話を小豆(アズキ)に変えましょう。従来の見解では、アズキはイネやムギなどと同様に大陸から日本に伝えられた、とされていました。しかし栽培アズキに限って言うと、中国よりも日本の方がアズキ種子の大型化が進行しており、日本起源説も有力でした。この度、農研機構のスタッフが、葉緑体に含まれているゲノムをより詳しく調べた結果、 アズキの栽培化は日本で始まったという結論になったそうです。

https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/ngrc/169242.html

このように、過去の思い込みが覆ることはよくあることです。ニホンミツバチの起源についても同様です。