2025-07-18

既に翻刻があるのにくずし字で読んでいた『折々草』


建部綾足の『折々草』とは、1700年代の旅行記です。綾足はその中で、吉野(奈良)の十津川での養蜂を記録に残しています。当時養蜂は、綾足自身のみならず読者のほとんどが見たことも聞いたこともないものだったので、わざわざ旅行記に特筆したのです。もし昔からミツバチがいて、農家が採取するようなものだったなら珍しくもないので、書に記したりはしなかったはずです。

ところで、私は建部綾足という人物を知らなかったため、『折々草』は清水浜臣(1776-1824)の『遠り遠り草』で知りました。内容は同じで、要するにパクリなのですが、『折々草』の存在を知らなかったので、執筆当初は『遠り遠り草』の方を引用文献にしていました。危ないところでした。

https://dl.ndl.go.jp/pid/2553998/1/36

くずし字で読みづらいですが、挑戦してみてください。私はなんとかそれを解読していきました。しかし後に、翻刻されたものが見つかりました。なぜすぐに見つからなかったかというと、タイトルが、『遠り遠り草』と『折々草』とではまったく異なっているため、『折々草』でサーチするには至らなかったからです。


『折々草』に到達できたのは、おそらく十津川の養蜂を調べたルートからだったと思います。出版前に翻刻を発見できたことは幸運でした。くずし字なんか正しく読めているかどうか分からないですからね。

くずし字は、その道のプロでも、どう読んで良いか分からないことは日常茶飯事です。そのような場合は前後から推測して「なんとなく」読んでいます。くずし字単体からだけでは正確には読めないことがあるのです。そのようなわけで、くずし字を判別するスマホアプリは十分ではありません。また、人間が読んでも、読み間違いはよく起きています。大学の先生の翻刻にも誤りはあります(もちろん、出版後に気づいて自己嫌悪に陥っていることでしょうが)。

なんとも曖昧なことをやっているのだなと思われたかもしれませんが、手書き文字ですからね。現代でも、悪筆、誤字脱字、書き間違いなど、さまざまな理由でどう読んでいいのか分からない手書き文字は珍しくありません。それと同じことです。