聖書とハチミツ3--乳と蜜の流れる地


乳と蜜の流れる地



神ヤハウェ/エホバがアブラハムに対し、その子孫に与えると約束した「約束の地」は「乳と蜜の流れる地」(出エジプト3:8)でした。この程度のことは、イスラム教やユダヤ教、キリスト教の信者でなくても教養のある人なら誰もが知っていることでしょう。

今回考えるのはこの「蜜」についてです。養蜂家ならこの「蜜」のことを「蜂蜜」と思ってしまうことでしょう。英語訳の聖書を見ると約束の地が”a land flowing with milk and honey”なので、ますますその確信を強めてしまうことでしょう。


דבש


しかし、ヘブライ語で書かれた聖書中の語義を英語で考えるのはナンセンスです。かといって、ヘブライ語で考えればより良く分かるというものでもありません。

「乳と蜜の流れる地」の「蜜」のヘブライ語は、「דבש」です。「דבש」ではなんのこっちゃ分かりませんので、音訳すると「ドゥバシュ」になります。音訳しても解釈にはまったく役に立ちませんが。

ヤハウェが約束した「דבש(蜜)」が一体何なのかは、当のユダヤ人たちも一義的には分からなかったので、その解釈は注釈書に当たるタルムードを参照していました。タルムードのケトゥボート(Ketubot)の111bによれば、「דבש(蜜)」は、イチジクの甘味のことのようです。なお、「乳」の方はヤギの乳です。
ラミ・バル・エヘズケルRami bar Yeḥezkelは、ベネイ・ベラクBenei Berakに偶然出会った。彼はイチジクの木の下で草を食べているそれらのヤギを見た。そこには、イチジクからにじみ出る蜜(דבש)とヤギから滴る乳があり、ふたつの液体は共に混ざっていた。彼は言った。これは「乳と蜜の流れる地」という節の意味である。(Ketubot 111b)

しかし、これもラビたちの解釈なので、イチジクで間違いないとまでは言い切れません。これをナツメヤシだと考える人もいます。イスラエルには昔からナツメヤシが生えていて、その実を乾燥させたものはデーツと呼ばれています。デーツは非常に甘いドライフルーツです。

要するに今も昔も、ヤハウェが言った「דבש」が何なのか誰も分かっていないのです。


なぜ蜂蜜ではないのか


今日多数派は、「乳と蜜の流れる地」の「蜜」はナツメヤシかイチジクと考えていて、蜂蜜と考える人はほとんどいません。その理由は、聖書中に蜂蜜についての記述がほとんどなく、またイスラエルにおいても養蜂が行われた形跡がなかったからです。イスラエルで養蜂が行われていたことは、聖書とハチミツ2--古代イスラエルにおける養蜂でも書きましたが、最近分かったばかりです。

昔から発掘調査が行われている割に、養蜂場が見つかったのはテル・レホブの遺跡だけなので、古代のイスラエルで養蜂は盛んではなかったのでしょう。エッセネ派の中心地かも知れないと考えられているクムラン周辺にも養蜂場跡は見つかっていません。少なくともアブラハムの時代には養蜂の「よ」の字もなかったのでしょう。


約束の地に蜂蜜がなかったわけではない


このようなわけで、ヤハウェがアブラハムに約束した「乳と蜜の流れる地」の「蜜」は単に甘い物を抽象的に指しただけで、ずばり「蜂蜜」のことを言っているわけではないと解釈するのが妥当です。

それでも、イスラエルに「蜂蜜」そのものがなかったわけではありません。ミツバチもいましたから、野生のミツバチの巣から巣脾(巣板)ごと蜂蜜を採ることは行われていたことでしょう。これについては次回検討します。

このブログの人気の投稿

聖書とハチミツ2--古代イスラエルにおける養蜂

養蜂場ができるまで--開墾

上荘養蜂場のショッピングサイト