聖書とハチミツ4--士師/裁き司


士師



タナハ、あるいはヘブライ語聖書(立場によっては「旧約聖書」)で戸惑う用語のひとつに「士師」があります。「士師」はめったに使われることのない日本語なので、意味が分かる人はほとんどいません。「士」と「師」なので、「侍」と「先生」かしらと考えてしまいがちですが、そう考えても正しい意味は分かりません。

「士師」を英語に戻すと”Judges”になります。”Judge”は「裁判官」です。しかしそう訳すとますます間違いにはまり込みます。聖書における「士師」は裁く者でしたが「裁判官」ではありません。「士師」は特殊な聖書用語なので、語義から考えても意味はありません。

「士師」とは、カナンの地に入植後、イスラエルに統一され王朝が成立するまでの間の、各部族の指導的立場や目立った立場にいた人物のことです。「士師」は語義が実態から乖離しているので、特殊な聖書用語であることと、原義を重視して、訳語は「裁き司」くらいが落としどころのように思います。

なお、”Judges”に「士師」という訳語が与えられたのは、古代中国で刑罰の任に当たった役人のことを「士師」と呼んでいたからです。聖書における”Judges”の苦肉の訳だったと思われます。


デボラ


前置きが長かったですが、イスラエルにおける蜂蜜についてです。「女預言者」にデボラという人物が出てきます。デボラが何をしたかについては省略しますが、その名前「דְּבוֹרָה‎, 」は、「ミツバチ」または「ハナバチ」という意味です。

デボラという名前が、生まれた時に名付けられたものではなく、後から業績に基づいて与えられた贈り名(諡号)だとしても、彼女が蜂蜜好きだったとか、ミツバチを飼っていたとか、そういうことは分かりません。そういうことは聖書のテーマには重要ではないのです。

このブログで注目するのは、当時のイスラエルに「ミツバチ」という語が存在し、それが人の名に用いられたことです。イスラエルにもミツバチがいて、それが認識されていたということです。ミツバチが認識されていたということは、その生産物であるハチミツも認識されていたはずです。つまり、甘い食品としてハチミツは当時の人々に認識されていたということです。

この「デボラ」という、エピソードとは無関係な名前が保存されたおかげで、士師編纂時(バビロン捕囚後)、場合によってはソロモンよりも前の古代のイスラエルにハチミツがあったことを伺い知ることができます。


サムソン


サムソンはソロモン王政よりも前のイスラエルの指導者だったようですが、有名になったのは「怪力の持ち主」というその特殊な設定ゆえです。英雄のように描かれていますが、フィリスティア人/ペリシテ人の側からすれば大虐殺者で、ダゴン崇拝が盛んだったガザやアシュケロンでは大暴れしました。また、ナジル人ということで聖別された存在ではありましたが、フィリスティア人の女性に惚れたりと、ユダヤ教的にどう位置づけてよいのか分からないところがある人物です。

さて、士師14章には、サムソンが蜂蜜を食べたエピソードが挿入されています。

日がたって後、サムソンは彼女をめとろうとして帰ったが、道を転じて、かのししのしかばねを見ると、ししのからだに、はちの群れと、蜜があった。彼はそれをかきあつめ、手にとって歩きながら食べ、父母のもとに帰って、彼らに与えたので、彼らもそれを食べた。しかし、ししのからだからその蜜をかきあつめたことは彼らに告げなかった。(14:8-9 口語訳)

これは、12節以降の伏線になります。

サムソンは彼らに言った、「わたしはあなたがたに一つのなぞを出しましょう。あなたがたがもし七日のふるまいのうちにそれを解いて、わたしに告げることができたなら、わたしはあなたがたに亜麻の着物三十と、晴れ着三十をさしあげましょう。しかしあなたがたが、それをわたしに告げることができなければ、亜麻の着物三十と晴れ着三十をわたしにくれなければなりません」。彼らはサムソンに言った、「なぞを出しなさい。わたしたちはそれを聞きましょう」。サムソンは彼らに言った、「食らう者から食い物が出、強い者から甘い物が出た」。彼らは三日のあいだなぞを解くことができなかった。(14:12-14 口語訳)

かなり無理のあるなぞなぞですね。解答者が可哀想です。

やや脱線しました。ここでは、ミツバチが獅子(士師と紛らわしい)の屍/ライオンの死骸に群がって蜜を貯めていました。ミツバチは開放空間で営巣することもあるので、ライオンが死んだばかりではなく十分に乾燥し皮と骨だけになっていたのなら、そこに巣を造っていたとしても不思議ではありません。わたしもナザレとカナの間で、道路脇に横たわって乾燥しているイヌやウシの死骸を見たことがありますから、この光景は想像できなくもありません。

サムソンはその怪力の伝説から他の士師/裁き司と異なり、そのエピソードは非常に怪しく、士師編纂時(B.C.E.500年ごろ?)に何かの伝説を重ね合わせたようなところがありますが、この無理やり感のあるエピソードから、遅くとも士師編纂時にはミツバチと蜂蜜が存在していたことをうかがい知ることができます。

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