2025-02-28
漢文不要論に対するまともな反論としての『全訳家蜂蓄養記』
2025-02-14
マルハナバチの蜂蜜について
『全訳家蜂蓄養記』はこれまでの養蜂史研究を覆すブレイクスルーとなりましたが、それは平安時代の「蜜蜂」が、マルハナバチあるいはクマバチであることを指摘し論証したところにあります。
平安時代に書かれた「延喜式」、「和名類聚抄」、「小右記」などには「蜜蜂」を思わせる記述があるため、平安時代にミツバチはおり、蜂蜜も採取されていたと考えられてきました。私も執筆開始時においては、そう理解していました。
最初にその理解に違和感を覚えたのは、「延喜式」の蜂蜜貢納義務国に紀伊がなかったことです。まあでもそれは決定的ではなく、色々理由をつけることができるので、それほど重大視していませんでした。特に「小右記」には「蜜蜂」から少量の蜜を採取した日記が書かれていたのでほぼ確実と考え、最初の原稿では平安時代にミツバチがいた数少ない証拠の例に「小右記」を挙げていたほどです。
マルハナバチがミツバチの一種で蜜を集めることは知っていましたが、それほど詳しかったわけではありません。マルハナバチについて理解を深めたのは、『家蜂蓄養記』の「土蜂」が一体何なのか突き詰めて考える必要が生じたからです。それが何なのか分からずに『家蜂蓄養記』を訳すことはできません。
『日本山海名産図会』には「ツチスガリ」が出てきます。現代も「ツチスガリ」という昆虫はいます。うっかりしていると、現代の「ツチスガリ」と『日本山海名産図会』の「ツチスガリ」は同じものだとして話を進めてしまいそうですが、直ぐに別物だということに気づきました。現代の「ツチスガリ」はカリバチで、花蜜を集めることはしないからです。
『日本山海名産図会』の「ツチスガリ」が現代の「ツチスガリ」でないなら、一体それは何なのかを言わなければなりません。「ツチ」は土、「スガリ」は蜂ですから、『日本山海名産図会』の「ツチスガリ」は「土蜂」です。
では、蜜を集める地面に営巣する蜂とは一体何なのか? 最初は、マルハナバチとは思いませんでした。その外観はミツバチに似ていないですから。まず検討したのは「ミツバチモドキ」です。「モドキ」というくらいそれはミツバチに似ています。一応花蜜も集めます。集めはしますが、蜜は溜まっていないようでした。色々調べているうちに、「土蜂」はマルハナバチに違いないとの結論に至りました。『家蜂蓄養記』の翻訳においてはそれで十分でした。
「土蜂」がマルハナバチだと分かりましたが、この時はまだ平安時代の「蜜蜂」がマルハナバチだという発想はありませんでした。しかし、平安時代の蜜蜂を整合的に書けないという問題があり、さらには鎌倉・室町・安土桃山時代にはミツバチの記述がないことについて納得の行く説明がつけられない問題もあり、それらの問題は自分の中で大きくなっていきました。
ふと「和名類聚抄」を読み直していると、それがクマバチのことであることに気づき、それが大きな転換点となりました。そこで、平安時代の「蜜蜂」がマルハナバチであると言い切ることができるかについて検討に入りました。そのためには、平安時代の「蜜蜂」についての記述をほぼすべて掘り起こし、それらがマルハナバチだと言っても無理のないことを確認する必要があります。
マルハナバチの蜂蜜は、ニホンミツバチと呼ばれるトウヨウミツバチの蜂蜜と比べるなら量は少なく質も低いです。それでも当時の人々が本物(?)の蜂蜜を知らないのなら、それを蜂蜜と合点することはあったでしょう。むしろこれは、「延喜式」や「小右記」の蜂蜜の量が異常に少ないことの説明になります。
このような推論を経て、平安時代の「蜜蜂」の正体がマルハナバチであるという結論に到達できたのでした。これまで誰もしたことのない推論によって新たな真実に近づくという体験は、非常にスリリリングなもので、研究の醍醐味というものです。これは「銅鉄研究」のような初めから結果が予想される実験や類似の後追い研究から得られるものではありません。
さて、「マルハナバチの蜂蜜」についてですが、養蜂家でも見たことのない人は少なくないでしょう。それは、以下のような具合です。
https://www.youtube.com/watch?v=UmDfR5ZNhhU
https://www.youtube.com/watch?v=3fVtDy8N2K8
蜂蜜は採れなくはないですが、ミツバチほどではないですね。久世松菴の記述とも一致します。やはり当時の「土蜂」はマルハナバチだったのです。
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