2020-02-07

養蜂家になるとはどういうことか

養蜂家になるとはどういうことなのでしょうか。ミツバチを飼えばそれで養蜂家なのでしょうか。ミツバチが好きならそれで養蜂家になれるのでしょうか。


ミツバチは自分ひとりだけで飼っているわけではない


わたしは「責任を持ってミツバチを飼育している人」が養蜂家だと考えています。誰でも犬を飼うことができるように、ミツバチも誰もが飼うことができます。それでも、たとえば犬の場合、狂犬病やその他の予防接種をせずに、放し飼いで、しかもキャパシティを超えた多頭飼育をしているなら、それは犬を飼っているとは言えません。むしろ「犬を虐待している」と言えるでしょう。

また、地域で犬を飼っているのは自分ひとりだけということはありえません。近隣の他の人々も飼っているものです。そのような人々のことを無視して独りよがりな飼い方をしていては、それは犬飼い人ではなく、ただの近所迷惑な鼻つまみ者です。

同じことがミツバチの飼育にも言えます。多群のため管理しきれず分蜂を許すなら、どこかで分蜂騒ぎを起こすことになります。分蜂群が飛来した家の人は生きた心地がしないことでしょう。

家畜保健衛生所が実施するふそ病検査を怠っている者や、飼育環境を不潔にしたまま顧みない者、法定伝染病や届出伝染病の感染を確認しても管轄の家畜保健衛生所に報告しない者は、近隣のミツバチに疫病を蔓延させることになります。そのような他の養蜂家を尊重しない者に養蜂家の資格はありません。

こうした問題があるため、養蜂家は地域の養蜂家同士で情報交換を行う必要があります。わたしは情報交換したり、サポートやアドバイスを行うことはやぶさかではありませんし、実際これまでそうしたことを行ってきました。

それでも、養蜂場にゴミを落としたり、養蜂箱に腰を掛けたりするような常識の欠けた人、また友人や家族を侮辱するような礼節を欠く人は養蜂を行う以前のご無用な方なので、お断りさせて頂いています。


学び続ける責任


犬博士にならなくても犬を飼うことはできますが、それでも最低限のことは知っていなければなりません。ミツバチの場合も、放っていても蜂自身がなんとかやっているものですが、放任飼育ではいずれ滅んでしまいます。責任を持ったミツバチの飼育には、勉強が欠かせません。

そもそも、ミツバチは、「養蜂」という語があるように、ペットというよりはむしろ家畜です。愛玩目的や趣味で犬や猫を飼うのとは異なります。

では現在、標準的な飼育方法があるのかというと、「ある」と言っても間違いとまではいえませんが、それでも十分蜂のことが明らかになっているわけではありません。今やっていることが、果たして正しいのか間違っているのか、確たることは言えません。人類が新たなウィルスにさらされて滅びる可能性があるように、ミツバチも未知の疫病と戦っています。

このような問題を解明しようと世界中の研究者らが取り組んでいます。その成果は論文の形で、あるいは書籍の形で発表されています。もし責任を持ったミツバチの飼育を行いたいなら、彼ら/彼女らの研究の成果についていく必要があります。

なぜこのような当たり前のことを書くのかと言うと、インターネットを閲覧して理解した気になっている養蜂家が少なからずいるからです。

署名入りの記事は別として、インターネット上の情報は噂話や願望の域を出ない断片的で不正確なものが少なくありません。実際のところ、ミツバチに関しては間違った情報が流布しているのが現実で、そのような神話的な/幻想的なミツバチ観から抜け出せていない養蜂家もいます。

概して養蜂家による特殊な私見は、間違っているか、少なくともその養蜂家のその地域でしか役に立たないようなものしかありません。それなのに不勉強な養蜂家は、「学者が著したものにも誤りがある」と言って学ぶことを怠っています。都合の良い情報を取り入れるだけでは学んでいるとは言えません。

どれだけ割り引いてみても、勉強量、知識量、観察眼、実験装置、コミュニティの学識水準において、一般の養蜂家が研究者に勝っているところはありません。「養蜂家」になりたいのなら、思い上がることなく謙虚に学んでいく姿勢が不可欠です。


安全な蜂蜜を提供する責任


蜂蜜を販売しているプロ養蜂家は、養蜂家全体で考えればそれほど多いわけではなく、多くの養蜂家は、採取した蜂蜜は自家消費に回し、流通させることはないと思われます。それでも、近所の人々や知人に配ることはするでしょう。

そこで注意しなければならないのが、「蜂蜜に毒が混ざらないようにする」ことです。

近頃は、ダニ駆除のためにギ酸という劇物を用いる養蜂家が現れ始めました。ギ酸は気化し、蜂蜜に吸収されます。確かにミツバチもアリの仲間でギ酸を作り出しており、蜂蜜の中にごく微量のギ酸は含まれていますが、その量はダニ駆除のために用いて吸収されたギ酸の比ではありません。

ギ酸などという毒物をいちいち用いて蜂蜜の喫食者を失明等の危険に晒す必要はありません。ダニ駆除には、有機的な方法か、動物医薬品として承認されている薬を用いるべきです。

ダニ駆除用の動物医薬品として承認されている薬に、アピスタンとアピバールがあります。両者とも採蜜期間に用いることはできません。蜂蜜に混入する恐れがあるからです。しかし、万一そのようなことがあったとしても大事に至らないように、アピスタンもアピバールも蜂蜜に残りにくくなっています。すなわち、アピスタンは脂溶性のため蜂蜜に溶け込むことはなく、また、アピバールは加水分解するので万一蜂蜜に混入しても無害化します。

しかし、それでも気をつけなければならないことがあります。アピスタンは脂溶性のため蜂蜜に溶け込むことがないとは言え、ロウでできた巣には溶け込んでいます。もし蜂蜜にこのアピスタンが溶け込んだ巣の断片、つまりは巣クズが混ざり込むなら、蜂蜜にアピスタン(フルバリネート)が入り込むことになります。

このような気づきにくい混入は、蜜の分離時に、蜜刀ではなく、フォークのような蓋かき器を使うと起こりやすくなります。もし、蜂蜜に巣クズが目立つようなら、その養蜂家は、毒の混入について無頓着と言わざるをえません。

もし「養蜂家」になりたいのなら、利益ではなく、蜂蜜の消費者の健康を最優先するべきです。