当時の養蜂書の記述は、海外の文献情報を引き合いに出しているだけなのか、実際に見たのか、ハッキリしないケースもあり、今更著者に確認を取ることもできないため、書いている内容しか手がかりは残っていません。
結局のところ、青柳浩次郎がスケッチを残していてくれたおかげで、ヘギイタダニの寄主転換が最初期に起きていたことが証明されました(詳しくは、『ミツバチのダニ防除』をご覧ください)。それでも、本物のミツバチシラミバエが入ってきていたかどうかは不確かなままです。入っていた可能性も十分ありますし、見たという記述もあります。しかし実際のところはどうだったのでしょうか。
以下は、国会図書館デジタルオンラインにアップロードされている養蜂書(1889-1929)の明治大正時代の「蜂虱」についての記述を引っ張り出してきたものです。分量は多いですが、是非ご覧ください。
内務省版独逸農事図解第七蜜蜂養法、1875
彼蝋板を抱きて頻りに咬み破ることあり。然る時は蜜蜂其蠹蟲を遠ざくる為に蝋を窖中より輸出す又蜜蜂の虱と称ふるものあり〔第五十九圖(ロ)〕。大約女王に噬ひ着きて動か
※蠹蟲とは、シミ
養蜂改良説 玉利喜造 著 (有隣堂, 1889)明治22.12.14
p88
蜂虱なるものあり。甚だ細微にして、時としては壹疋〔一匹〕の蜂に拾余疋〔十数匹〕寄生することあり。(句読点の挿入と濁点の付記、〔 〕は筆者による)
蜜蜂飼養法 花房柳条 著 (青木嵩山堂, 1893(明治26)年4月1日)
p145,146
蜜蜂は、蜂虱と名くる一種の虱に罹ることあり。再三蜂の蠢動し出る巣、及び僅に蜜を含める巣は、此の如き悪虫を生ずることあり。然るときは、少くも一週に一度其巣を清掃し、毎朝蜂糞を除き去るべし。蜂虱は母蜂に噛着て動かざることあるは、屡々実験する所なり。蓋し蜂糞より虱類、或は他の虫を生ずることあればなり。但伝染せる蜂巣を廃却し、蜂を取出し、之を清潔するに非ざれば、全く其虱を一掃すること能わず。虱の形は長円にして鉄色あり。蜂の上に煙草細末を糁布すれば之を殺すべし。(句読点の挿入は筆者による)
蜜蜂 青柳浩次郎 著 (農業社, 1896) 明29.3.30
p57
蜂虱なる者ある。蜂に寄生して生活し、往々一匹の蜂に数個寄生することあり。其蜂の体を歩行すること甚だ速やかなり。其繁殖多きときは、蜂群をして衰弱せしむることあり。之を見出すときは、必ず捕へ殺すべし。(句読点の挿入は筆者による)
養蜂実験説全 西田俊一(徳久養蜂場, 1903)明治36.4.1
p215-216
蜂虱は、蜜蜂に寄生する一種の害虫なり。其形は長円にして六本の脚を備ふる甚だ細微なる虫なり。第二十二図の如し。時としては一匹の蜂に二十余匹も寄生することあり。又王蜂に食い付きたる時は決して離れざるものなり。と云う発生を知りたる時は毎週少くも一二度其巣箱を掃除し、毎朝蜂の糞等を除き去るべし。台板には多くの虱落下するものなれば度々掃除を為せば其数を減ずべし。蓋し蜂の糞は虱其他寄生虫発生を招く原因なればなり。一度び此蜂虱の発生したるときは【続きの画像ください】
養蜂書 フランク・ベントン 著[他] (早稲田農園, 1903)明36.4.25
p168
ブラウラ・コエーカ(Braula Coeca)と称する無翅の双翅虫は、普通蜂虱と呼ばれ、地中海地方にありては、蜂の有害虫なり。其成虫は寄生動物に比して頗る大にして、働蜂稀に雄蜂の胸部に附著し、蜂王には特に多し。著者は一回一匹の蜂王より七十五匹の蜂虱を得たることあり。然れども、普通は十二匹以上なるとなし。斯くの如く多数に寄生する時は蜂王は体液を吸収せらるゝが為に衰弱す。此虫は、蜂王及び其従者たる蜂と共に輸入されたること、屡々之あれども、今に繁殖せざるものゝ如し。蓋し、北部に於ては繁殖することなかるべきも、欧州南部に気候の相似たる地方に於ては、或は輸入繁殖することあるやも料られず、故に蜂に附着し来りたる寄生虫は充分に取去るを宜しとす。
養蜂全書 青柳浩次郎 著 (箱根養蜂場, 1904) 明治37年1月23日
p335,336
蜂虱は蜂体に寄生し、其繁殖多きときは蜂群を衰弱せしめ、又蜂王に寄生したるときは容易に離れずして、遂に衰弱せしむるものなり。其色赤銅色にして、第六十五図の如く縦二厘横三厘許りの亀甲に似たる小虫にして、裏面に六足を有し上部より之を見れば、甲下に隠れて現はるゝこと少なく、其蜂体を歩する甚だ速かなり。此虫は出房せし蜂に寄生するのみならず、幼蜂の出房前已に寄生し居ものなり。虫除法は甚だ困難なるも、蜂群を強盛ならしむるときは漸次減少するを以て、衰弱せし蜂群は他よりも働蜂を分かち与へて強盛ならしめ、或は蜜の多量を給して蜂群をして活溌ならしむべし。雄蜂の甚だ多きは此の害虫の繁殖を助くるものなれば、過多の雄蜂を生ぜしめざるを良しとす。又巣内の不潔なるは此の害虫生ぜる多ければ、常に底板を掃除して清潔にするは即ち予防の一なり。(句読点の挿入は筆者による)
養蜂実用新書 加藤今一郎 著 (興産養蜂場, 1906) 明39.10.12
愛知県額田郡河合村
p141
この外蜜蜂の害敵と見るべきは、シオウリ、トンボ、赤蜂、クマ蜂、蟻、食虫鳥、鼠等ありて蜜蜂を苦しましむれども、此等の害敵は駆除の道なく
※蜂虱の記述なし
実験蜜蜂飼養法 益田芳之助 著 (学農社, 1907)明40.5.25
p100-101
蜂虱とは、蜂体に寄生する微細の小虫で、其の大さ二三厘許りの、亀甲に似たる六足を有せるもので、此の虫は出房前の幼虫にも寄生することがある。殊に蜂王に寄生するときは、終に衰弱せしめて死に至らしむべく、甚だ恐るべき害虫の一である。之れが予防法としては最常に蜂群を強盛ならしむることと、巣箱内を清掃して汚物の堆積せしめざるにあり。
※「死に至らしむる」記述がある
養蜂講義 青柳浩次郎 著 (箱根養蜂場, 1907)明40.9.28
p216
蜂虱は赤銅色の縦二厘横三厘位の亀甲に似たる小虫で、蜂体に寄生するもので若しも蜂王に附着するときは容易に離れずして遂に衰弱せしむるものです。蜂虱は其発生に依りて蜂群を衰弱せしむると云ふより衰弱する蜂群に寄生するものであるから、蜂群を盛んならしむれば、決して恐るゝに足らぬものです。巣箱内の不潔は此虫を繁殖せしむるものであれば常に巣箱を掃除して清潔にするが良いのです。若し此の虫の発生したるときは蜂群に蜜を吹き掛け、朝夕二三日続ける時は効があります。
※表現が柔らかくなっている
最近蜜蜂飼育法 駒井春吉 著 (読売新聞社, 1907)明40.10.1
p155-157
一の蜂王に七十五匹の虱 蜂虱はブラウラ・コエーカ(Braula Coeca)と云ふ。学名を有する無翅の小昆虫であつて、蜂体に寄生し体液を吸収してその生を保つて居るものである。其形は図に示すが如きものであつて、大きさは漸く二厘に過ぎない。此の虫は幼虫も成虫も共に害をなすもので蜂王は特に其寄生を受くる事が多い。米人フランクベントン氏は一匹の蜂王から一回に七十五匹の蜂虱を得たといふ事がある。尤も之は例外で、普通には十匹内外を超ゆることは少ない。蜂王の外、働蜂も亦た寄生を受くる事が多い。全体此被害は余り急激に来るものではない。しかし沢山寄生さるれば遂には蜂群の衰弱を来すに至る。
予防法 且つ一旦寄生したるものは容易に離れるものではないので、之が駆除法は中々困難であつて、別に良法とてはない。只常に蜂群を強盛にして置いて之等の害敵に対する抵抗力を増しおく事が唯一の予防策といはねばならない。それであるから衰弱した蜂群には特に他から働き蜂を持ち来たりて之に合わせて蜂群を強大ならしむるなどは、最も有効な手段というべきである。其他底板を掃除して巣箱を清潔に保つ事なども此虫の発生を予防する上に有力なる事勿論である。
※ブラウラ・コエカの大きさが小さすぎる。
養蜂全書 青柳浩次郎 著 (箱根養蜂場, 1908)明41.1.10増補訂正第4版
p470
蜂虱は蜂体に寄生し、其繁殖多きときは蜂群を衰弱せしめ、又蜂王に寄生したるときは容易に離れずして、遂に衰弱せしむるものなり。其色赤銅色にして、第八十1図の如く縦二厘横三厘位の亀甲に似たる小虫にして、裏面に六足を有し上部より之を見れば、甲下に隠れて現はるゝこと少なく、其蜂体を歩する甚だ速かなり。此虫は出房せし蜂に寄生するのみならず、幼蜂の出房前已に寄生し居るものなり。駆除法は甚だ困難なるも、蜂群を強盛ならしむるときは漸次減少するを以て、衰弱せし蜂群は他よりも働蜂を分かち与へて強盛ならしめ、或は蜜の多量を給して蜂群をして活溌ならしむべし。雄蜂の甚だ多きは此の害虫の繁殖を助くるものなれば、過多の雄蜂を生ぜしめざるを良しとす。又巣内の不潔なるは此害虫生ずる多ければ、常に底板を掃除して清潔にするは即ち予防の一なり。(句読点の挿入は筆者による)
※初版とほぼ同じ
養蜂指針 原富太郎, 中野昂太郎 著 (西尾盛文堂, 1908)明41.11.29
香川県大川郡三本松町
p100-101
蜂虱は蜜蜂の身体に寄生する一種の害虫にして、蜂は其虱の為に体液を吸収さるゝが故に衰弱す。蜂の此の害を蒙りたるときは、其底板を掃除するの暗色を帯びたる微細の円扁なる虱が蠢動しつゝあるを目にすべし。かゝる状態を目にせば、掃除を屢なし底板に落下する虱を漸次取り除く如くなし。
又巣箱内の清潔を計らば、次第に其害減少すべし
※北岡(1968)の1967年同時多発発生に、香川県大川郡長尾町を挙げている。
通俗実験蜜蜂養法 益田芳之助 著 (和歌山養蜂研究所, 1909)明42.6.25
p84
蜂虱は蜂体に寄生する微細な小虫で、其大さ二三厘ばかりの茶褐色なる亀甲形の六足を有せるもので、此の虫は多く出房前の幼蜂に寄生することあり。又王蜂に寄生するときは終に衰弱せしめて死に至らしむることもある。之れが駆除法は最も困難にして別に良法なきも、予防としては常に蜂群を強盛ならしむることと、時々巣箱を清掃して汚物の堆積せざるやう注意するにある。
※駆除法は最も困難、良法なし
最新養蜂講義録 荘島熊六 述 (島原婦人会, 1909)明42.10.30
p265
巣虫などが在る。之は本邦などでは特に多いようである。然るに他の害敵どもは、之に比べると殆どなんでもないと謂ふてよろしい。
p273
蜂虱は細小なる赤褐色の虱であって蜂体へ寄生するものである。時としては一疋の蜂へ十疋以上も附着して居ることは珍しくない。尤も蜂へは格別何等の害をなすことはない。けれども、余り多く発生したならば煙草を以て強く燻べ、同時に巣箱の底板を清掃し、尚ほ、フェニール若しくは炭酸酢液を以て数回洗浄せねばならぬ
通俗実験蜜蜂養法 益田芳之助 著 (中央養蜂会, 1912)大正1.12.12 第6版
(益田事)鈴木芳之助
p128
蜂虱は蜂体に寄生する微細る小虫で、其大さ二三厘ばかりの茶褐色なる亀甲形の六足を有するもので、此の虫は多く弱小群又は雄蜂多き蜂群に寄生し、出房前の幼蜂に寄生することあり。もし王蜂に寄生するときは衰弱せしむるの恐れあり。之れが駆除法は最も困難にして別に良法なきも、予防としては常に蜂群を強盛ならしむることと、時々巣箱を清掃して汚物の堆積せざるやう注意するにある。
※「死に至らしむる」記述がなくなっている。
蜜蜂 徳田義信 著 (丸善, 1913)大正2.1.1札幌北五条
p495,497-498
三、はちじらみ
はちじらみは小なる赤褐色の虫にして、働蜂又は王蜂の胸部に附着し殊に王蜂に集まる虫なり。此虫は翅退化し、脚は三対あり、挙動稍や活発にして馳走し、蜂体に触るゝや、固く之に執着して取り離さんとするも容易に非ず。
此の虫の卵は母体内に於て孵化し母体の滲出物を吸収して成長し、遂に底板上に産み落とされたる蛆は楕円形の蛹に化し、十四日にしてしらみ(成虫)となる。
初めは淡赤色にしてまゝ八十乃至百個の多数が王蜂に附着せる事あり。此虫は蜂の体液を吸うものと考へられしも事実は然らずして、ただ蜂と同棲して餌食を共にするに過ぎざる事明了となれり。
ナフタレンを巣内に散布すれば容易に死滅せしむといふ。最良なる予防法は常に底板を掃除するにあり。
養蜂大鑑 駒井春吉, 野々垣淳一 著 (明文堂, 1913)大正2.2.15
p538-539
蜂虱はブラウラ・コエーカ(Braulla Coeca)と称する甚だ小さき無翅の双翅虫にしてその色赤褐色をなし蜂体を寄生し体液を吸収してその生を保つものなり。働蜂稀に雄蜂の胸部に附著し、蜂王には特に多し。米人フランクベントン氏は一匹の蜂王により一回に七十五匹の蜂虱を得たることありといへど、之等は異例にして、普通には十匹内外を超ゆること稀なり。これが被害は余り激しからざれども、多数の寄生を受くれば、蜂体の衰弱を来すことあり。殊に蜂王に寄生する時は蜂群の蕃殖を妨ぐること最も大なれば、これが予防につとむべし。蜂群を強盛に保ち、底板を掃除し常に乾燥清潔に保つことは最も有力なる予防なりとす。
※「大観」ではなく「大鑑」
青柳浩次郎校閲 実験養蜂問答 養蜂協会 編 (箱根養蜂場[ほか], 1913)大正2.3.20
p276
問 七月二日始めて蜂虱の聊か居れるを発見せり。右駆除法御教授を乞ふ
答 蜂群に吹蜜するは其効あり。又蜂群を強盛にすれば自然に絶ゆるものなり
問 蜂虱は蜂の養分を吸ひ取るものなるや。又如何なる所に産卵あるや
答 養分を吸ひ取ると云ふほどのものにはあらざるも蜂を苦しめ蜂を早く衰弱せしむ。産卵は巣房内にあるものゝ如く、蜂児の出房するとき已に附着し居るものあり。又巣脾の表面にも産卵す
※産卵についてはヘギイタダニとシラミバエの記述が混じっている。
実用養蜂書 駒井春吉 編 (明文堂, 1913)大正2.4.12
p211-212
蜂虱は甚だ小さき無翅の双翅虫にして、その色赤褐色をなし、蜂体を寄生し体液を吸収してその生を保つものなり。働蜂稀に雄蜂の胸部に附著し、蜂王には特に多し。米人フランクベントン氏は一匹の蜂王により一回に七十五匹の蜂虱を得たることありといへど、之等は異例にして、普通には十匹内外を超ゆること稀なり。これが被害は余り激しからざれども、多数の寄生を受くれば、蜂体の衰弱を来すことあり。殊に蜂王に寄生する時は蜂群の蕃殖を妨ぐること最も大なれば、これが予防につとむべし。蜂群を強盛に保ち、底板を掃除し常に乾燥清潔に保つことは最も有力なる予防なり。
※養蜂大鑑とほぼ同じ
養蜂大辞典 : 図入 野々垣淳一 著 (養蜂界社, 1913) 大正2.6.3
p46
はちしらみ(蜂虱)【BRAULA COECA】体色赤銅色にして縦二厘横三厘位の亀甲形、裏面内部に六足を有する小虫。蜜蜂に寄生し血液を吸収する害虫。
※野々垣は縦横比は気にならなかったのか?
養蜂階梯 大日本養蜂会 編 (大日本養蜂会, 1913)大正2.7.1
岐阜県安八郡大垣町
p139-140
四、ハチジラミ 日本では未だ発見せられない様だ。通常、ハチジラミと謂はるゝものは、壁虱類のもので昆虫類に属する、ブラウラ・ケイカと謂ふものではない。ダニにしても常に巣箱中の清掃に注意し、蜂群を強勢に保てば予防となるのである。
養蜂提要 白木甚吉 著 (本巣養蜂場, 1914)大正3.5.10
岐阜県本巣郡川崎村
p124
蜂虱は蜂体に寄生し、其繁殖甚だしときは蜂群を衰弱せしめ、又蜂王に寄生したるときは容易に離れずして、衰弱せしむる。其色赤銅色にして、縦二厘横三厘位の亀甲に似たる小虫にして、裏面に六足を有し、蜂体を歩む甚だ速かなり。駆除法は甚だ困難なれば、これを未発に予防すべく蜂群を強盛活発ならしむる為め合同、或は飼養するを良しとす。又常に底板を掃除して清潔を保つべし。
※青柳の養蜂全書の引用
最新実験蜜蜂の飼ひ方 北島正太郎 著 (有隣堂書店, 1914)大正3.5.20
p154-155
蜂虱。小なる赤褐色の虫にして働蜂又は女王の胸部に附着し殊に女王に集まる虫なり。翅は退化し、脚は三対あり挙動稍活発にして馳走し蜂体に触るゝや固くこれに執着して容易に離れず。従来この虫は蜂の体液を吸ふものと見られしも事実は然らずしてただ蜂と同棲して餌食を共にするに過ぎざる事明になれり。
ナフタレンを巣内に散布すれば死滅せしむといふ。最良の予防法は底板を掃除するにあり。
※蜜蜂 徳田義信 著 (丸善, 1913)大正2.1.1札幌北五条と同じ内容。ダイジェスト
養蜂 瀬山栄吉 編 (三省堂, 1915)大正4.4.16
p30
埼玉県児玉郡
(二)害敵
巣虫(俗にトヂ虫又はツヅリ虫)胡蜂、燕、蟻、蜘蛛、蟾蜍、蜂虱等なれども大惨害を與ふるものは巣虫なり
養蜂大観 駒井春吉, 野々垣淳一 著 (明文堂, 1916) 大正5.4.15
p538-539
蜂虱はブラウラ・コエーカ(Braulla Coeca)と称する甚だ小さき無翅の双翅虫にしてその色赤褐色をなし蜂体を寄生し体液を吸収してその生を保つものなり。働蜂稀に雄蜂の胸部に附著し、蜂王には特に多し。米人フランクベントン氏は一匹の蜂王により一回に七十五匹の蜂虱を得たることありといへど、之等は異例にして、普通には十匹内外を超ゆること稀なり。これが被害は余り激しからざれども、多数の寄生を受くれば、蜂体の衰弱を来すことあり。殊に蜂王に寄生する時は蜂群の蕃殖を妨ぐること最も大なれば、これが予防に力むべし。蜂群を強盛に保ち、底板を掃除し常に乾燥清潔に保つことは最も有力なる予防なりとす。
※最近蜜蜂飼育法 駒井春吉を引用
※養蜂大鑑とほぼ同じ
実際養蜂 諏訪末吉 著 (博文館, 1916)大正5.5.13
p60
蜂虱は小豆色の円く扁平な小虫であつて、幼成虫の体躯に寄生して衰弱に陥らしめるが、巣内の著しく不潔な者にのみ発生し、一群の中僅々二三十匹未満が其害に罹る位ゐである。
養蜂全書 青柳浩次郎 著 (箱根養蜂場, 1918(大正7)年1月25日(第13版)
p492,493
蜂虱は蜂体に寄生し、繁殖多きときは蜂群を衰弱せしめ、又蜂王に寄生するときは容易に離れずして、終に衰弱せしむるものなり。色は赤銅色にて、第七十七図の如く縦二厘横三厘位の亀甲に似たる小虫にして、裏面に六足を有し上部より之を見れば、甲下に隠れて現はるゝこと少く、蜂体を歩する甚だ速かなり。此虫は出房せし蜂に寄生するのみならず、幼蜂の出房前已に寄生し居ものあり。是れ卵の房中にありて蜂児と共に生育せるものなり。駆除法は甚だ困難なるも、蜂群を強盛ならしむるときは漸次減少するを以て、衰弱せし蜂群は他よりも働蜂を分かち与へて強盛ならしめ、或は蜜の多量を給して蜂群をして活溌ならしむべし。雄蜂の甚だ多きは此害虫の繁殖を助くるものなれば、過多の雄蜂を生ぜしめざるを良しとす。又巣内の不潔なるは此害虫生ずる多ければ、常に底板を掃除して清潔にするは即ち予防の一法なり。(句読点の挿入は筆者による)
実験四〇年養峰実務講話 青柳浩次郎 著 (日本養蜂協会, 1924) 大正13.10.5
p193
蜂虱は、赤銅色の、縦二厘横三厘位の亀甲に似たる小虫で、蜂体に寄生するもので、若しも蜂王に附着するときは、容易に離れずして遂に衰弱せしむるものです。蜂虱は其発生に依りて蜂群を衰弱せしむると云ふより、衰弱せる蜂群に寄生するものであるから、蜂群を盛んならしむれば決して恐るゝに足らぬものです。巣箱内の不潔は此虫を繁殖せしむるものであるから、常に巣箱を掃除して清潔にするが良いのです。若し此虫の発生したるときは蜂群に蜜を吹き掛け、朝夕二三日続けるときは効があります。
※養蜂講義 青柳浩次郎 著 (箱根養蜂場, 1907)明40.9.28と同じ内容
養蜂大観 駒井春吉, 野々垣淳一 著 (明文堂, 1925) 大正14.3.5 改定第5版
p496-497
蜂虱はブラウラ・コエーカ(Braulla Coeca)と称する甚だ小さき無翅の双翅虫にしてその色赤褐色をなし蜂体を寄生し体液を吸収してその生を保つものなり。働蜂及び稀に雄蜂の胸部に附着し、蜂王には特に多し。米人フランクベントン氏は一匹の蜂王により一回に七十五匹の蜂虱を得たることありといへど、之等は異例にして、普通には十匹内外を超ゆること稀なり。これが被害は余り激しからざれども、多数の寄生を受くれば、蜂体の衰弱を来すことあり。殊に蜂王に寄生する時は蜂群の蕃殖を妨ぐること最も大なれば、これが予防に力むべし。蜂群を強盛に保ち、底板を掃除し常に乾燥清潔に保つことは最も有力なる予防なりとす。
※メモ
ヘギイタダニについて書いてるのは、ほぼ青柳のみ。和歌山の益田芳之助も書いているが、青柳のコピー。香川の大川郡の原富太郎, 中野昂太郎(1908)が、「円扁」を書いている。諏訪末吉(1916)も「円扁」を書いている。
青柳自身も養蜂講義(1907)の中で「恐るるに足らず」と言い始めている。共生関係が安定化した?鈴木(益田)芳之助も破壊的影響については書かなくなった。
「蜂虱」のスケッチは、青柳以外すべてシラミバエのもの。