『全訳 家蜂蓄養記』の出版から一年が経ちました。この間、多くの反響をいただくことができました。
「ニホンミツバチ外来種説」も研究者の間では浸透し、今では「ニホンミツバチは古くから生息する野生種」という絶妙な表現が用いられるようになっています。
各学会において書評をいただいています。
まずは、日本応用動物昆虫学会会員の原野健一氏の評からです。
https://odokon.org/archives/2024/0615_095317.php
限られた文字数の中で、不過分なく整然と紹介いただきました。展開も無理なく筋道だっていてスッと入ってきます。拙訳は第二部が注目されがちですが、ちゃんと第一部にも注目し紹介されていて、よく読んでいただいた上での評だと感じました。
原野氏は現在、玉川大学で教えておられますが、その研究者人生を綴ったものに『ミツバチの世界へ旅する (フィールドの生物学 24) 』(東海大学、2017)があります。同書によると、原野氏は、ミツバチのダンスなどイメージ先行で語られる事柄が必ずしも実態を表しているわけではないことを認識されているようです。
おそらくこれまで、そういう問題意識を持ちながら実験などをされてこられたので、ニホンミツバチ外来種説についても紹介する必要があると考えられたのだと思います。なお、その説に対し原野氏自身は評の中でご自身の立場を明確にはされていませんが、読者に先入観を持たせないための配慮だったのだろうと想像します。
次は、日本民俗学会の佐治靖氏による評です。日本民俗学会とは、なるべく権威主義的な表現を抑えて説明すると、柳田國男の流れにある日本で著名な民俗学の研究者団体です。
そのような団体の機関紙に『全訳家蜂蓄養記』が紹介されたことは、民俗学の発展に貢献したはずです。というのも、日本の民話にミツバチはほぼ皆無、江戸時代になってポツポツと現れる程度だからです。民俗学は広範ですが、研究者なら誰しも一度は「日本にはミツバチの話がない」と不思議に思ったことがあるはずです。
その答えは、『全訳家蜂蓄養記』に明らかにされているので、書評を読んだ研究者は、勘を働かせて拙訳を手にしたのではないかと思います。
日本民俗学の書評は、こちらをご覧ください。
https://toretate.nbkbooks.com/9784540231445/拙訳を紹介くださった両氏に感謝申し上げます。
さて、拙訳は、翻訳も解説も、養蜂史再考も、どの部分も全力で書いています。
まあでも濃淡がないわけではありません。一番楽だったのは第三部の原文です。校訂などはありましたが、それほど苦労はありませんでした。書き写すだけですからね。一方で、最も真剣勝負で臨んだのは、「書き下し文(かきくだしぶん)」です。書き下し文自体は、人によって解釈の違いがあるので、違っていても構わないのですが、助動詞の活用や助詞は間違えると明らかなので、そういうミスのないよう何度も音読して確認しました。
ちなみに、高校以下の教育機関では、一般的に書き下し文は、いわゆる歴史的仮名遣いで書くものですが、私は現代仮名遣いで書いています。最近の教科書は、書き下し文の歴史的仮名遣いは強制していませんし、研究者は主に現代仮名遣いを採用しているからです。
現実的なことを書くと、歴史的仮名遣いで正確に書くことは非常に難しいことです。やれるものならやってみてください。なかなか出来るものではありませんから。助動詞の活用や助詞という難関をクリアしても、歴史的仮名遣いで躓くのは残念ですので、無理はせず、身の丈にあったこととして、現代仮名遣いで済ませた次第です。