現在、ヘギイタダニ対策の一つとして、いわゆる雄蜂巣房トラップ法が広く行われています。これは手間はかかりますが、アピスタンやアピバールよりも効果があり、薬代もかからず、農薬等(動物用医薬品、ギ酸、シュウ酸など)残留の心配もないことから、支持されています。私もそれを支持しているので、拙著『ミツバチのダニ防除』の副題にそれを入れたほどです。
『ミツバチのダニ防除』では、雄蜂巣房トラップ法の基本的なメカニズムや理屈を解説しています。その中で、オーソドックスな雄蜂巣房トラップ法として「雄蜂巣房切り」を紹介した上でそれを批判し、「雄蜂巣房刺し」を推奨しました。
蓋がけされた雄蜂巣房を切り取るなら巣房ごとヘギイタダニを処分できるので、直感的にダニ対策ができているような感じがします。対して、雄蜂巣房を刺すだけでは、未成熟ダニは殺せても母ダニは殺せず残ってしまうので、雄蜂巣房を切り取るよりも劣った方法のように思えてしまいます。そのため、刺すのではなく切る人の方が多いように思われます。
確かに、雄蜂巣房を切り取ってもそれなりにヘギイタダニ対策になっています。しかし、実験した結果を比べるなら、雄蜂巣房を刺す方が遥かに効果的でした。この直感に反する不思議な現象はなぜ起きたのでしょうか?それは、雄蜂巣房を切ってしまうと、外部寄生虫のヘギイタダニが働き蜂巣房に入ってしまい、そちらで繁殖するからです。
この問題は、雄蜂巣房を切るタイミングに時間差を設けたとしても変わることはありません。やはり、雄蜂巣房が少ないと、その分、働き蜂巣房に入ってしまうのです。そのようなわけで、この雄蜂巣房を切り取る方法ではなかなかヘギイタダニは減らず、成果は上がらないというわけです。そのため、人によっては雄蜂巣房トラップ法自体の効果を疑うこともあるでしょう。
対して、「雄蜂巣房刺し」は、蜂が雄蜂巣房を作り直す時間を必要としないため、ヘギイタダニが働き蜂巣房に行くことは少なくて済みます。「雄蜂巣房刺し」は、雄蜂巣房が温存されるので「雄蜂巣房切り」よりも効果的なのです。
というわけで、読者の皆様におかれましては、固定観念や思い込み、先入観に囚われることなく、事実と証拠に基づいて「雄蜂巣房刺し」を行うようお勧めします。