上荘は自然に恵まれたところですが、それは同時に天敵も豊富にいるということでもあります。
ミツバチにとっての天敵は、人間、シオヤアブ、トンボ、コガタスズメバチ、キイロスズメバチ、モンスズメバチ、カマキリ、ツバメ等さまざまいますが、中でもオオスズメバチは、ものの1、2時間で群れを壊滅させることができる最大の天敵のひとつです。ニホンミツバチもセイヨウミツバチもオオスズメバチに襲われるとほぼ確実に滅ぼされます。ニホンミツバチは蜂球で対抗すると言われていますが、それでいつでも撃退できるわけではありません。むしろそれは運が良い方で、普通は狙われたら最後です。殊にセイヨウミツバチは、養蜂家の加護がなければ冬が来るまでにほぼ確実に全滅させられます。
そのようなわけで日本の養蜂家は、オオスズメバチの魔の手からセイヨウミツバチを護り切らなければならないわけですが、だからといってオオスズメバチを殺すというのは憚れます。「正当防衛」と言っても無闇に殺生すべきではありませんし、そもそもオオスズメバチは虫を捕ってくれることから、農家にとっては益虫です。そこで、そのような益虫であるオオスズメバチをなるべく殺さずに、かつミツバチも保護できるような方法を模索しなければなりません。
間違った方法
大手養蜂業者が販売している「ススメバチ捕殺器」を用いるのはNGです。何らススメバチ対策にはなりません。「ススメバチ捕殺器」は、業者を儲けさせるものの、まったくスズメバチ対策にはならない最悪のツールです。
「ペットボトルトラップ」はどうでしょうか。ペットボトルトラップとは、砂糖水を入れたペットボトルの上部にオオスズメバチが入ることができるくらいの穴を開けておくというものです。砂糖水は数日で腐りますが、その発酵臭にオオスズメバチがつられ、ペットボトルの中に入ってきます。しかしその後出ることはできないため、ペットボトルの中で死ぬことになります。
この方法は、多くのスズメバチを殺すことができるので一見意味があるように思えますが、実際は無意味な対策です。というのも、ペットボトルで殺すことができるオオスズメバチは全体の極一部でしかないからです。また、砂糖水の発酵臭は、養蜂場にオオスズメバチをおびき寄せることにもなります。この方法が、賢明な対策と言えないのは明らかです。
正しい方法
オオスズメバチ被害を抑えるのに必要なことは、ミツバチとオオスズメバチの習性を理解し、その習性に沿った対策を講じることです。そのために役に立つのが、湘南家畜保健衛生所が公開している「ダンボールで簡単!スズメバチ対策 」です。
これによると、「スズメバチから襲撃を受けた時に内勤蜂が防御のために出巣しないようにするなら、スズメバチを殺生することなく、同時にミツバチを保護することができる」ということが分かります。
その防御のための出走を防ぐ方法が、巣門の前に設ける「トンネル」です。トンネルを設けることで、外界との距離が延長され、結果として内勤蜂の防御のための出巣を抑制することができます。
湘南家畜保健衛生所の提案は、予算の都合によるものなのか、ダンボールを用いていますが、個々の養蜂家は耐久性のある素材で同様のものを作ることができます。というか、そうすべきです。
100円ショップの活用
いわゆる100円ショップで、以下の条件を満たしたカゴを買いました。
1. ミツバチは通り抜けることができるがオオスズメバチは入れないほどの穴(5mm以上8mm以下)があること
2. 養蜂箱に装着した時に隙間ができないこと(上面が平らになっていること)
なお、上の商品にはフックがついているのですが、それは外してあります。
底面だけに穴が空いていれば都合が良いのですが、そういう商品はなかったので、側面の穴をガムテープで塞ぐことにしました。
養蜂箱に装着した時に上面になる方には、外側からガムテープを張りました。
底面になる方には、内側からガムテープを張りました。
これで、カゴの底面(養蜂箱に装着した時には側面になる)以外の穴は塞がれました。ところで、底面になる方を内側からガムテープを貼ったのは、ガムテープと穴の間にゴミがたまらないようにするためです。上面についても同様の趣旨で、外側からガムテープを張りました。
次に、トンネルになるよう、ダンボールを2、3枚貼り付けます。
まずは、上から垂れる板を奥の方につけます。
次に、下から伸びる板を手前の方につけます。
これで完成です。
上ではダンボールを用いましたが、雨に弱いので、耐久性のあるベニヤ板を使うというのも一つの手です。
湘南家畜保健衛所は、トンネルによって距離を延長させると説明していますが、それよりも、巣門から外敵が見えないようにすることの方が重要であるように思われます。そのような意味で、手前の方に立てる板は、下に隙間ができないように注意しなければなりません。また、板は重なるようにして、中から外が一瞥できないようにしておかなければなりません。
養蜂箱に装着しました。画鋲で留めています。
蜂は、出る時も戻って入る時も出入り口が分からずもたつきますが、直ぐに慣れるようになります。このような蓋は、ない方が効率が良いのはもちろんですが、オオスズメバチの被害を避けるためにはこうするしかありません。
https://www.youtube.com/watch?v=-x-W9Ru46cE
効果
9月に入ってからオオスズメバチが頻繁に訪れるようになりましたが、特に目立った被害はありません。
一度だけですが、上のカゴが外れていたために、7、8匹ほどのオオスズメバチに攻撃されている群れがありました。
カゴが外れた原因は不明ですが、おそらくはオオスズメバチが強力な大アゴでこじ開けたのだろうと思います。
そのため、カゴが外れないように画鋲だけでなくブロックも併用するようにしています。