2019-09-27

総合的なヘギイタダニ対策の必要性について


アピスタンと感染状況


8月のお盆の頃、羽の縮れた蜂が見つかったので「アピスタン」というダニ駆除剤を全群に投入しました。これは非常に高価な薬で、マニュアルに従うなら1群あたり700円ほどかかります。「1群あたり700円」と言っても、保有群数分必要ですので、100群の場合は7万円にもなります。目が飛び出そうです。

このダニ駆除剤は最大6週間まで使うことができますが、それほど長期間使わなければならない訳ではありません。アピスタンは投入直後からすぐに効果が現れるからです。もし群れがヘギイタダニに寄生されているなら、底に赤く小さな破片のようなものが落下しているのに気づくはずです。
(仰向けになっているヘギイタダニ。細かい足が見えます。)

アピスタンを入れてみましたが、ほとんどダニは落ちておらず、全体の1割程度の群れでダニの寄生を確認できた程度です。厳密なことを言えば、すべての群れにダニはいるのでしょうが、大半の群れは直ちに対処しなければならないほど深刻だったわけではありません。

多くが深刻でないとしても、一部が全体にダニを拡散させる原因となりえ、また、どの群れがどの程度感染しているのかも分からないことから、ダニ駆除は養蜂場全体で一斉に実施しなければなりません。

これは、ダニ駆除の必要がない/必要性の乏しい群れにもダニ駆除剤を入れることになります。そうすることは、ほとんどのダニ駆除剤を無駄にしてしまうだけでなく、ダニの薬剤抵抗性を高めることにもなります。また、ダニ駆除剤の投薬は、ガンの化学療法と同じで、体が小さく弱いダニを殺しますが、同時に蜂をも殺すことになります。


オス蜂巣房除去


現在日本の養蜂において、化学薬品を使ったダニ駆除は限界に達しています。ダニが薬剤抵抗性を獲得してしまっており効果は弱くなっており、またそのために、安易な養蜂家が濫用しているために、ますます効き目が薄くなっています。

ダニ対策は、究極的には、ダニ耐性の低い蜂群を滅ぶに任せ、生き残った耐性群からやり直すべきなのですが、そのような勇気のある養蜂家はいません。そこで、別の方法が模索されます。

ヘギイタダニは蛹になる直前の雄蜂巣房に入ることが多いので、その性質を逆手に取り、内検時に雄蜂の蛹を潰すようにしています。手作業で行う「雄蜂トラップ」のようなものです。

巣房が潰されると成長途中の雄蜂の蛹は、働き蜂によって巣房から引きずり出されます。その時に若齢のヘギイタダニも共に引きずり出されます。結果的に、ヘギイタダニの繁殖は抑えられます。
(この画像は、働き蜂が巣の外に捨てたオス蜂の蛹です)

しかし、この方法ではヘギイタダニをゼロにすることはできません。また夏以降は雄蜂巣房自体が作られなくなるため、いつの時期でも実施できるわけでもありません。


カルニオラ種


ニホンミツバチなら、自ら/互いにグルーミングを行うので、ヘギイタダニが問題になることは(あまり)ありません。対して、セイヨウミツバチがヘギイタダニに弱いのは「グルーミングを行わないから」と言われることがあります。しかし、まったくグルーミングを行わないわけではありません。

セイヨウミツバチも、ニホンミツバチ/トウヨウミツバチと比較するなら頻度は低いですが、時折グルーミングを行っています。中でもカルニオラ種と呼ばれる黒/灰色っぽいミツバチは、セイヨウミツバチの中でも相対的に高い頻度でグルーミングを行っており、多少のヘギイタダニ耐性があります。

それでも、カルニオラ種がヘギイタダニ問題の救世主とまでは言えません。カルニオラ種だからといって、ニホンミツバチのようにヘギイタダニに首尾よく抵抗できるわけでもありません。ヘギイタダニ対策としてカルニオラ種を育成することは、万能の解決策というわけではありません。


総合的な対策


人間は横着なもので、何かひとつの方法で問題を一挙に解決しようとしがちです。しかし、現実の問題はそれほど単純なものではありません。そのような問題に対する有効な解決策は「急がば廻れ」です。横着せずに手間のかかる地味な方法こそが、ヘギイタダニ対策の近道となるでしょう。

上荘養蜂場では、基本的に「内検時には雄蜂巣房を潰す」ようにし、「「もし例外的に化学療法を行うなら、幼虫や蛹が最も少なくなる時期(真夏、真冬)に、ヘギイタダニの死骸の落下数を観察しながら短期的に用いる」ようにしています。これは、今のところ考えうるベストな方法です。