言うまでもなく越冬は、養蜂家にとって重要な課題の1つです。今年は暖冬のおかげもあり、蜂群喪失率は1割程度ですみました。逆に言うと、9割もの群れが「越冬」に成功したわけですが、一言に「越冬」といっても少なくとも2つの観点からの「越冬」があります。
まずは、「女王蜂を含み蜂群が生き残ることができたかどうか」という観点での越冬、そしてもうひとつは、「流蜜期に採蜜可能な群勢になるほどの蜂量が残っているかどうか」という観点での越冬です。
つまり、後者のような観点からは、仮に蜂群が無事に生き延びることができたとしても一握りほどの働き蜂しか残っていないなら、その年にその群れから蜜を採ることも、分割して増やすこともできないでしょうから、実質的には越冬に失敗したとカウントされることになります。そのような場合は、他の群れから援軍を迎えて建て直す必要があります。
それでも滅ぶよりは越冬する方がマシなので、ここでは第一義の観点からの越冬について考えることにします。
貯蜜切れ
まず、越冬中に蜜が切れたら滅びます。これを「貯蜜切れ」といいます。エネルギーとなる蜜がないと巣内の温度を維持できず、変温動物であるミツバチは動けなくなりそのまま凍死してしまいます。この場合は、多くの蜂が空になった蜜房に頭を突っ込んだまま死ぬことになり、その様は見るに耐えない悲惨なものになります。
このような餓死は自然状態でも生じえます。群れが十分の蜜を集めていなかったり、秋季に十分花が咲かなかったり、冬が長く、または冷え込みが強かったり、寄生虫や病気といった、自然の気まぐれによって生じることがあります。
飼育下のミツバチの場合は、主に蜜を取りすぎた場合に起こりえます。蜂群の凍死は、貪欲に搾取した報いと言うことができます。
それでも飼育下にあるミツバチには秋季の段階に砂糖水を給餌しておくことができますし、また定期的に巣箱を持ち上げて残りの蜜の量を量り、軽すぎるようなら冬季でも緊急的に給餌することもできます。
このようなわけで、飼育群が凍死するのは、養蜂家が貪欲だったか、蜂群れの状況を把握することを怠っていたか、やるべきことをやっていなかったということを意味します。要するに、養蜂家として恥ずかしい失敗を犯したということです
盗蜂
十分の蜜を残しておく/与えるといったやるべきことを行っていても越冬に失敗することがあります。その原因の一つに「盗蜂」があります。
盗蜂とは、晩秋等蜜源が不足している時期に、他の群れの巣に押し入って貯蜜を奪うことです。この盗蜂のターゲットとなるのは蜂数が少ない弱群です。貯蜜の略奪時には争いになり、抵抗を止めるまで殺戮は続きます。盗蜂のターゲットとされると、その群れは解散となり、どこか(他の群れ等)へ行ってしまいます。
養蜂家の勝手な観点からは、蜂たちは共存共栄すべきだと考えてしまいがちですが、見方を変えるなら、これは自主的な自然淘汰と言えるかもしれません。
冬を迎えるまでに十分な規模にまで増殖できなかった群れだとしても、それがただちに「女王蜂の産卵能力に問題がある」ことを意味するわけではありません。群れの規模拡大は蜜源に影響されるところが大きく、どちらかと言えば偶然に左右されることが多いため、それを女王蜂の産卵能力にのみ帰すのは不合理な考え方です。
それでも、他の群れが大きく成長している中そうなっていないなら、何らかの原因が疑われます。そのようなわけで弱群が冬季に淘汰されることは、種族としてそれほど間違ってはいないのかもしれません。
このように、冬季には種の保存のための淘汰が行われるため、全群越冬というのはなかなか難しいものなのです。