2022-06-10

ニホンミツバチへのアカリンダニ寄生についての私見

ミツバチのダニ防除』では敢えて書かなかった私見に、K字翅(Kウイング)の原因とメントールの作用機序があります。

私見を直接的に書かなかったのは、自分の推論と同じ見解を示している論文が見つからなかったからです。本は、裏付けのない不確かな私見を開陳する場ではないので、不用意なことは書いていません。私見は、オリジナルの防除方法を除き、ほとんど書いていません。しかし、推論を組み立てられるだけの材料は、すべて書の中に収めています。


ニホンミツバチの多くがノゼマに冒されているのではないか

日本語圏の養蜂家に限らず英語圏の養蜂家も、アカリンダニ寄生の徴候のひとつにK字翅があると信じています。しかし、拙著でも指摘したとおり、K字翅とアカリンダニ寄生の因果関係は、まだ証明されていません。むしろ否定する立場の方が優勢です。

私の考えは、「ニホンミツバチの多くがノゼマに感染しており、そのノゼマが黒色女王蜂児ウイルスを媒介しているため、K字翅を呈している」というものです。K字翅の蜂を調べれば、アカリンダニよりもむしろノゼマと黒色女王蜂児ウイルスが見つかるだろうと予想します。

このように予想するのは、近頃のニホンミツバチ飼育者が、しばしば下痢症(腹部の膨張)をアカリンダニと結びつけて論じているからです。アカリンダニが下痢症の原因になることはありません。そんな研究はどこを探してもありません。アカリンダニの寄生箇所は胸部なのですから。しかし、ノゼマならそれはありえます。

ノゼマに罹った蜂が、黒色女王蜂児ウイルスやアカリンダニにも複合感染している、と見るのが自然です。実際のところ、アカリンダニが原因とされているワイト島病の犯人は、実はアカリンダニではなくノゼマだったという論考もあります。その論者は、L. Baileyですので、その見解を無視することはできません。

The " Isle of Wight disease " : The origin and significance of the myth

http://www.dave-cushman.net/bee/baileyiow.pdf


メントールは蜂の体温を上昇させ、アカリンダニ熱殺に寄与しているのではないか

アカリンダニ寄生による蜂群死を恐れたニホンミツバチの養蜂家は、メントールで治療を行っています。一般的には、メントールは他の精油と同じメカニズムでアカリンダニを殺していると考えられています。そう言ってしまって不都合はないので、そういうことにしていても良いのですが、私は別のメカニズムも想像しています。

つまり、メントールはスースーしますから、その蒸気にさらされて体感温度の下がった蜂が発熱することで、体内のアカリンダニを通常よりも高い体温で殺しているのではないか、と想像しています。

上の2つの見解は、どれも仮説というほどのものではなく、反論の余地もある愚考です。私が自由に想像したものです。皆さんがどう考えるかは、まったくの自由です。