『全訳 家蜂蓄養記』は、もちろんのこと久世松菴の『家蜂蓄養記』を読めますが、それだけでなく、日本の新しい養蜂史も示しています。旧養蜂史観は、今となっては見当違いの代物ではありますが、それがこれまでずっと維持されてきたのは、この『又続南行雑録』が見過ごされてきたためです。
『又続南行雑録』は、国立公文書館に所蔵されています。下のリンクからPDFをダウンロードできます。
表紙のタイトルが『又続南行雑録』ではなく、『続南行雑録』になっていますが、それは両書が合綴されているからです。『又続南行雑録』は75コマ目から始まります。肝心の「熊野蜜」についての記述は92コマ目にあります。
これまで『又続南行雑録』が顧みられなかったのは、一重に、国書刊行会の『続々群書類従第三史伝』が、『続南行雑録』しか収録しなかったことにあります。翻刻・出版されないことは、古文書にとって重大な問題で、日の目を見る機会を失います。そのような古文書は、原典に直接当たるしかありません。調査も捗りません。
このとおり、『又続南行雑録』は未翻刻のため、それを見つけることは容易ではありませんでした。どこの図書館の蔵書目録を見ても、『又続南行雑録』はなかったのです。もし『又続南行雑録』があるとすれば、彰考館関連史料を保管している「徳川ミュージアム」でしたが、そこの蔵書目録においてもヒットしませんでした。
結局のところ『又続南行雑録』は、『続南行雑録』に隠れてアップロードされていました。そのため誰も気づかなかったようです。私は、『又続南行雑録』の別名が『続南行雑録』という奇妙な記述を見つけ、丹念に『続南行雑録』を読んでいったところ、『続南行雑録』に続いて『又続南行雑録』が付されていたことに気づきました。
『又続南行雑録』の「熊野蜜」の記述は知られていなかったため、初めてそれを読んだ時は俄に信じられませんでした。それでも、史料と向き合い、それの意味するところを考えた末、これまでニホンミツバチがいた根拠とされる記述を一つずつ批判的に検討していったのです。その結果が、『全訳 家蜂蓄養記』です。
さて、ビデオゲームでは、新しいアイテムを手に入れると次に進めるようになっているものですが、まさに『又続南行雑録』がそれでした。リアルな世界でもこんな事があるのです。『全訳 家蜂蓄養記』の執筆は、私にとって知的興奮に満ちた感動的な体験でした。皆さんも、『全訳 家蜂蓄養記』の第二部を読み、その感動を追体験してみてください。